Ⅵ‐9

 鏑木先輩との喧嘩の結末から言うよ。全部中途半端に終わった。後のことはムラケンとカズさんの代の柔道部の先輩が片をつけた。もともと武闘派が少なかったけど実力はあったし、今回のカズさんのことでは柔道部の先輩達もブチギレてたから。


 俺はあれだけたんか切っといて、ただちょっと暴れて負けただけで終わった。俺の本気はその程度のことしかできなかった。


 話したいことがあると柔道部の先輩に近くの公園に呼び出されたのは、リンチでボコボコにされた傷が癒えてようやくまともに動けるようになった一週間後のことだ。先輩の一人から、カズさんが俺のことをずっと心配していたと言われた。その先輩は危ないから俺と関わるのをやめろとカズさんにずっと言っていたそうだ。カズさんはこうなることは分かっていたみたいで、助けてはやれないかもしれないけど、一緒にボコられるくらいはできるからって言ってたらしい。


 先輩からは、もうカズさんと関わるなと言われた。俺はそのつもりですと答えた。下を向いて黙ったままの俺に、ムラケンが髪の毛わしづかみにしてきて「上の人間にちょっと言われたくらいで大人しくすんなら最初から粋がんなザコ!」って言われて突き飛ばされた。俺はムラケンに殴りかかって殴り返された。悔しくてたまらなくなって「我慢すんのはテメェらのためじゃねえんだよ、この野郎!」って向かってって投げ飛ばされて、そのまま締め落とされた。


 ブラックアウトして気付いたら夕焼け空になってて、起きあがって辺りを見回すとバンブーだけがいて「俺、落とされた?」って聞いたらバンブーがうなずいた。


「シャレになんねえ。死んだらどうすんだよ。あいつ人殺しだな」

「ムラケンは殴っちゃダメだよ」

「ムカついたんだもん」


 俺はその場であぐらをかいてポケットからタバコを取り出して火をつける。好き勝手やってカズさんを巻き込んで、自分の代わりにケツを拭いてくれたムラケンに説教食らってまたムカついて歯向かって負けた。最近地面に寝転がること多過ぎじゃない? 情けなかったし今日や明日じゃ取り返せないくらいにメンタルが沈んだ。


「負けてばっかだわ」

「しょうがないよ、相手が相手だし」


 バンブーは慰めてくれて、慰めてくれるのを期待してた自分に気付いて恥じた。カズさんとはもう会えないのかなと思ったら泣けてきた。バンブーはそんな俺を見ないでいてくれた。


「いつかムラケンぶっ殺そうな」

「二人でいけるかな?」

「原付で後ろからひいて、倒れてるとこ鉄パイプか何かでタコ殴りにすりゃいけるんじゃね? それかヨッチに作戦立ててもらう」

「もしやるならトカレフか何か欲しい」

「いいね、殺す気満々じゃん。まあ、ムラケンやれば千葉で5本の指には入れそうだしやるか?」


 いろんなことをごまかして、バンブーの前で強がった。クソ意地でも張る以外にどう振る舞っていいのかが分からなかった。バンブーはそんな俺の虚勢と茶番にずっと付き合ってくれた。

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