Ⅳ‐1

 修学旅行が終わっても西島は俺に対してご機嫌斜めのままで、そのまま何の進展も無く夏休みに入った。


 ほんで尾笠原って覚えてる? 俺が最初に喧嘩してぶっ飛ばしたやつ。そいつが夏休みに入ってから俺に仕返ししようとしてか何か知らんけど俺達の地元うろうろしだして、うちの中学のやつらが何人か殴られたりしたらしい。


 最初、あいつ喧嘩弱いのに何でだろうって思ったんだけど東中のOB使って粋がったみたいで、尾笠原がOBに東中のことなめてるやつがいるとか何とか言ったんだろうね。それでOB連中も夏休みで暇だしって感じで超めんどい。まあ、先に何の恨みも無くぶっ飛ばしたの俺だけど、やり方がダサいっていうかサブいよね。しかも、最初に俺のとこに来ないっていうのが弱い。


 それで、俺のとこ来ないのは何でだろうって思ってたんだけど、どうやら楢崎省吾と俺が仲いいっていうのが向こうに伝わってたらしい。俺に手を出すと楢崎が出てくるって。それ聞いて、なめんなよと思ったマジで。


 全部教えてくれたのはヨッチ。多分だけど、俺と楢崎が仲良くなったって尾笠原に伝わったのも、ヨッチが他のやつに喋ったからなんだろうけど。


「俺がお前の力使って粋がってるみたいな話になってんだけど」って楢崎にLINEしたら「(笑)」って返ってきた。「俺に何があっても絶対に手を出すなよ」って送ったら「当たり前だろ(笑)」って。「分かってんならいいや」って返したけど、ぶっちゃけ超恥ずかしい。俺に何かあったら楢崎が助けてくれる前提で話しちゃってるじゃんってね。こりゃ噂になってもしょうがないわ。


 ほんで、今回は俺一人で行こうと思ったんだけど、ヨッチとバンブーが、うちの学校のやつらがやられてるからって出てきた。部活引退して暇になったんだろうね。


「受験は?」って聞いたら「まだよくね」って二人とも言ってて、ヨッチは作戦立てるのとか好きだし、バンブーは柔道部を途中で辞めた今の俺より喧嘩強いだろうし断る理由無いから三人でぶっちめることにした。


 でも実際ぶっちめるっていったって、そもそも相手が何人いるかも分かんない。マンガみたいにたまり場みたいなのがあって、そこに乗り込んでって千切っては投げ千切っては投げできればいいんだけど、そこまで俺もバンブーも無双ってわけでもないし、どうしようかって話になった。


 めんどくさくなって「見つけ次第、片っ端からやっちゃえばよくね?」って俺は言ったんだけど、ヨッチが調べるって言って色々聞いて回ってた。


 ほんで俺は知らなかったんだけど、おみやんとかも殴られたりしたらしくて、じゃあ、まず話を聞きがてら、おみやんちに行こうぜってなって、行く途中に尾笠原とその仲間達と遭遇した。


 見つけた瞬間「テメェ、こらぁ! クソガキャ!」って駆け寄って逃げる尾笠原の背中に飛び蹴り。前につんのめって倒れたとこ蹴っ飛ばしまくった。


「バンブー、逃がすなよ!」って言ったけど、まだ相手三人いて、一人は捕まえられたけど、二人には逃げられた。


「おら、テメェら、さっさと他のやつの居場所言えよ!」って、ひっぱたいてたんだけど居場所を吐かなくて、ヨッチが「もういいよ」って止めてきた。


「えっ、だって、どうすんだよ?」

「もういけるっしょ。おい、21時だ。21時に花山公園に来いっつっとけ」って言って尾笠原ともう一人の電話番号だけ聞いて帰しちゃったんだよ。


 ヨッチに「逃がしちゃっていいの?」って聞いたんだけど「全員いけるって言ってたじゃん」って。


「何人いるか分かんないって言ったのヨッチじゃん」

「弱気だね。心配になっちゃった?」


 ヨッチってホント性格悪いよね。俺がムキになって上等だってなったらなったでいいし、スカして心配だって言っても何か別の用意してるんだろうから「お前の好きにしろよ」ってねた。


「任せといてよ。策ならある」


 ヨッチが底意地の悪そうな顔してニコっと笑った。数では負けてて、でも相手より機動力と突破力のある駒があるっていうこの状況は孔明好きのヨッチにはよだれが出そうな状況だ。作戦とか考えって言えばいいのにわざわざ策とか言っちゃってて、ろくなこと考えてなさそうだけどもう勝手にしてくれ。

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