Ⅲ‐5
京都には三年坂っていう、転んだら3年以内に死んでしまうと言われている大変恐ろしい坂道があるんだけど、そこでヨッチを転ばせまくった。
「はい、3年以内に死ぬぅー」ってケラケラ笑って5回は転ばせたから「3か月以内かな」とか笑ってたんだけど彼女にそれを見られたヨッチがブチギレて、えらい剣幕だった。
「うるせえな、ビビッてんじゃねえよ、この野郎」って言ったらヨッチが「バンブー、手伝え」ってヨッチとバンブーが共闘して俺を転ばそうとして「うひょー、人殺しがいるぅー」って俺は笑って力が入らなくなって、くにゃりと転んだ。
「ハハハッ、何だよお前ら、ホントによ。迷信じゃなくて本当だったら、どうすんだよ」笑い過ぎて握力が無くなってなかなか起き上がれないでいたらヨッチが「自分がやり始めたんじゃん」って言ってきて、ここで終わると俺の負けみたいな感じがしたから俺もムキになった。
「うるせえな、この野郎。お前らビビり過ぎなんだよ。だいたい、単なる傾斜した地面ごときに俺が殺されてたまるかっつうの。見てろ」
俺は坂道目掛けて前回りをしてごろんと転がってみせた。転がって地面でゴロゴロしてたら、それを見てた観光客のおばちゃんに「あんた、道の往来で邪魔じゃないの。三年坂でそんなことして罰が当たるよ」って注意されて「すいません」って謝った。
俺が怒られてるのをヨッチとバンブーはニヤニヤしながら見てたから「あいつらなんです。最初に俺を転がしてきたんでやけになったんですよ」って嘘ついたんだけど、おばちゃんは最初から見てたみたいで「あんたが初めにやりだしたんでしょうが!」ってもっと怒られた。
「すいません」ってヨッチ達に「お前らのせいで怒られた」ってブツブツ言ってる時に、視線を感じて振り向いたら女の子と目が合った。
最初、目が合ったのに女の子がびっくりしてたんだけど「クスッ」って感じで笑って、その顔がかわいくて、俺もつられて笑った。カワイイ。ショートカットだ。タヌキ顔が優しそうなイメージをさらに増幅させている。この子、似合うな笑顔が。
「秀ちゃん、何笑ってんの?」ってバンブーに聞かれて「何でもない」って言って歩きだしたんだけど、その女の子の顔が妙に脳みそに焼き付いちゃってて、その後に行った清水寺の景色とか、あんま入ってこなかったんだよね。
その後もみんなで集合して記念写真も撮ったけどバンブーの後ろだったから心霊写真っぽく見せるにはどうすればいいか、手の位置ばっかり考えてたし。
団体行動での観光と記念写真を撮り終わって、旅館に行って荷物整理して風呂入って飯食って部屋の人間全員を巻き込んでの大富豪にキャッキャした。消灯時間になっても寝るわけなくて、一応電気消すんだけど目がギンギンでちっとも眠たくない。
一緒の部屋になったヨッチとバンブー、おみやんと塚本達と恋バナして、誰が好きなのか聞いたり、おみやんがオナニーしたことないって言いだしたから「嘘ついてんじゃねえ」って問い詰めたりしてた。
窓の外を見ると古都の面影が残る街並みがあって、この街並みを150年くらい前は幕末の志士たちや新選組が
俺は塚本がいる手前、喋りづらくてゴニョゴニョしだして、それを見てある程度の事情を知ってるヨッチがニヤニヤしながら「何か隠し事があるっぽくない?」って言ってきてバンブーも「そうだよね、おみやんのオナニーの時は隠し事は良くないって散々言ってたくせに」って詰め寄ってきた。
「うるせえな」とか「何でもないから」とか言ってて「そういうお前らはどうなんだ?」って聞いてたら恋バナが止まらなかった。
バンブーが剣道部の深山さんと今イイ感じだっていうのとか知らなかったし、ヨッチが最近まで付き合いが悪かったのは受験のせいじゃなくて付き合った宮本さんと会ってたっていうことや、公表したのは最近だけど、実はもっと前から付き合ってたっていう新事実も発覚した。
おみやんはアイドルとかカワイイと思うけど、リアルで誰かを好きになったこと無いっていう嘘なのかホントなのか分からないしょうもないことを言い始めて、バンブーは深山さんの前に俺達の間では笑っちゃうくらい巨乳でおなじみの中島さんが好きだったけどフラれたって話をして、中島さんがもし巨乳じゃなかったとしてもお前は中島さんを愛せるのか一応だけど確認したりした。
バンブーが「俺達が喋ったんだから秀ちゃんも話してよ」って言ってきて、俺も観念して西島が好きなんだって言った。
言った瞬間、無意識のうちに塚本の顔を見ちゃったんだけど、塚本はいつも通りの穏やかな顔をして、俺達の会話を聞いてた。
俺達全員、スタンドプレーだねって話になって、そもそもグループ交際とか、そういう文化が俺達には無いよねって。今後は付き合ったら報告。報告の順番は付き合った瞬間からカウントして、会う、もしくはLINEや電話なんかで連絡が来た順に報告することに決まった。(ヨッチがバンブーに先に教えたり、バンブーが俺に先に教えたりってなると微妙に角が立つから)
そういえば、こんな話とかしたことなかったねって終わればよかったんだけどバンブーが「塚本は?」って聞いちゃって、俺が「別にみんながみんな、言わなくていいだろ」って止めたんだよ。おみやんも言ってないようなもんだしいいじゃんみたいな感じで。
胸くそ悪いこと言うよ。みんなの中で塚本は陰キャで俺は陽キャって認知になってる。ヨッチもバンブーもいるこの場は俺のホームで塚本のアウェイだ。そういう場で俺と好きな子がかぶるのって、塚本の立場を悪くするんじゃないかなって俺なりの配慮だったんだけど、塚本はちゃんと「俺も西島が好きなんだ」って言った。
バンブーはめっちゃ気まずそうに「そうなんだ」って言ったっきり黙るし、おみやんは俺と塚本の顔をミーアキャットみたいに交互に見てて、ヨッチだけはこの展開を楽しんでた。
見世物じゃねえぞこの野郎って思ってたんだけど、もういいやって「やっぱりそうだったんだ」って塚本に言った。塚本は「バレてた?」って恥ずかしそうに聞いてきて、俺も「あんだけ西島見てたら分かるわ」って言ったら塚本が「櫻井君もだけどね」って、ちょっと青春ドラマっぽくなって恥ずかしくなってきた。
「ちょうどいい機会だから聞くけどさ、俺が西島狙いで近づいてるの分かってたはずなのに何で受け入れてくれたの? 西島の取り巻き女子部員みたいに邪険にしてもよかったじゃん」
「あー、あれね。最初、西島から野良猫拾ってきたから面倒見てあげてって言われて櫻井君が来た時はびっくりしたよ。怖いイメージもあったから。でも、俺がどうこうしたっていうより知らないうちになじんでたよね」
「あいつ、俺のことそんなふうに言ってたん?」
「言ってた。あと扱いは難しいだろうけど二人とも合いそうって」
塚本の顔がクラスの中での外用の顔じゃなくて部室の顔になってた。演劇部の副部長でみんなに慕われてて物腰の優しい隠れイケメン。
イケメンはあろうことか自分が西島を好きなのが俺にバレたことで俺が自分に遠慮してるんじゃないかって気にし始めたんだからかなわんよね。確かにそれもちょっとあったし悩んだけど、西島に積極的にいけないのは俺が単にヘタレでビビってるだけだったのに余計な気を使わせてしまっていた。
あらためて塚本の心根の清潔さに白旗を上げたくなったし、そうだよな、自分が好きになった子の名前も言えないやつなら、俺もジタバタしたりなんかしないよなみたいな。何かもうね、塚本とずっと喋ってて恥ずかしいくらい青春しちゃってて、何が一番恥ずかしいってヨッチにこんなん見られてるのが一番恥ずい。
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