悪役貴族に転生した俺。スローライフは諦めたので敵国の好感度MAXなヤンデレを配下に【闇の帝王】として悪の限りを尽くし、主人公の座を奪います!

まちかぜ レオン

第一章 悪役転生と仲間

第1話 転生したら悪役貴族でした

「あれ?」


 目を覚ますやいなや、俺はすぐに異常を察知した。

 ここは明らかに俺の部屋ではない。

 こんなふかふかの天蓋てんがい付きベッドで寝た覚えはない。


 両手を交互に見る。


「ん?」


 俺の手ではなかった。

 やけにゴツゴツとしている。


 服も違かった。

 ファンタジーとかで裕福な方々が好んで着てそうなやつだ。


 俺は単なる日本出身の大学生、たちばな康弘やすひろに過ぎない。 

 こんな格好をできるような金などさらさらない。


 ここから導き出されるのは、俺はもうたちばな康弘やすひろではないということだ。

 別の人格に乗り移ったと考えるのが妥当だろう。

 それも貴族っぽい。


 ――コンコン。


 部屋のドアがノックされる。誰かが来たようだ。


「どうぞ」

「失礼します。おはようございます、デクスター様」

「お、おはよう」


 声の主は女性だった。

 背は高く、細身であり、メイド服がよく似合っている。

 黒縁のメガネは知的さを彷彿とさせる。


 美人なメイドさんだ。 

 しかし、実際に会ったこともないはずなのになぜか既視感がある。


「……」

「どうされましたか、デクスター様。わたくしをじっと見つめなさって」

「いや、特に意味はないよ」

「はぁ……それならよろしいですが。朝食の準備はできていますから、好きなときに食堂へお越しください。では、失礼します」


 一礼して、メイドさんは立ち去った。

 美人メイドの破壊力が凄まじかったとはいえ、初対面の女性をじっと見つめるのはよくない。

 反省の余地がありそうだ。


 さて、この感じだと貴族確定演出だろう。

 なんたってメイドがいるわけだし。

 たとえ貴族じゃなくても、割と裕福な身分なのだろう。


 やったね。

 裕福な家柄なら、人に恨まれぬよう誠実に過ごし、平穏な人生を送ろうではないか!


 ……その幻想はあえなくぶち壊された。

 寝室には鏡があったので、試しに顔を見てみた。


「うわ……」


 完全なる悪役顔である。

 青く光る瞳は大きく威圧感があり、黒髪は奥深くに潜む闇を思わせる。

 もしすれ違いざまににらみでもしたら、誰もが逃げ出してしまいそうなレベルだ。


 身体はガッチリと引き締まっていて筋肉質。

 背もそこそこ高い。

 割合、整っている顔といえるかもしれない。


 新しい俺の姿を眺めていると、ふとひとつの考えが浮かんだ。


「あれ、メイドのみならずこの顔にも見覚えがあるな?」


 ということである。


 ややあって、メイドと俺の姿に対する既視感が気のせいじゃないとわかった。


「これって、もしや【皇道を征く者】の世界に転生したのでは?」


 しばらく前にやったゲームなのですっかり忘れていた。

 ただ、ようやく思い出すことができた。


 ――【皇道を征く者】。

 

 それは、かつて発売されていたハーレムゲーである。

 ファンタジー要素はあるものの、ベースはラブコメ。

 やり方次第で多くの女性キャラを侍らせることも可能である。


 剣と魔法の世界でもあり、バトルでの駆け引きもプレイで求められた。

 高度なグラフィックと操作性は当時話題になったものだ。

 その機能性のために、お値段はそこそこ高かった記憶がある。


 デクスター・モーダントは、【皇道を征く者】において、主人公と敵対する悪役貴族であった。


 The・腐った貴族の代表例みたいな奴だった。

 歪んだ性格は父親譲りで、モーダント親子で主人公の邪魔をしてくる。 

 権謀術数に躊躇ためらいはなく、幾度となく主人公の暗殺を試みていた。


 俺がやったルートだと、最終的にはモーダント派閥の一部が主人公側に寝返り。

 最終的には、デクスター家ともども暗殺されてしまっていたはずだ。

 つまるところ、破滅エンドを迎える、ガチの悪役貴族に転生してしまったということである。


 他にもいくつか分岐ルートはあった。

 細かい記憶は曖昧だが、いずれにせよデクスター生存ルートがなかったことは確かである。


「まずいことになったな……」


 今後、俺はデクスターとして振る舞うことが求められる。


 たちばな康弘やすひろの性格のままで過ごせば、別人ではないかと疑われ、最悪殺されかねない。

 今後、ある程度は演技をすることが求められるだろう。


 それに、魔法による戦闘が求められる。

 場合によっては、正直嫌なものだが、人を殺さなくちゃいけないかもしれない。

 そもそも人殺しが俺にできるのか不安であるが。

 

 そういうわけで、相手を無力化させる魔法を習得できればそれが最善だ。

 とはいえ、ここで生き残ることが第一。

 もしものときは、殺しもやるしかないだろう。


「それはそうと、まずは朝食だよな」


 メイドさんがいってたもんね。


 ちなみに、メイドさんの名前はシャーリーという。

 家事から戦闘まで多彩な才能をお持ちだ。

 何度か主人公とも戦い、接戦を繰り広げていた。


 その実力は折り紙付き。

 かなり頼りになるはずだ。

 好感度を下げないようにしっかりとしなければ。



 寝室を出て、食堂を目指す。


 家の構造を俺はすぐに把握できていた。

 迷わずに食堂に行けた。

 なにせ、ゲーム通りなのだから……。


「こちらが本日の朝食となります」

「ありがとう。じゃあいただくとするよ」


 朝からかなり豪勢な食事が並んでいる。

 さすが貴族である。


 さて。

 これからの第二の人生において、俺の目標はただひとつ。

 破滅エンドをなんとしても回避し、平穏に暮らすことだ。


 ただ、破滅に繋がる芽を摘むことは忘れちゃいけない。

 不手際は許されないのだ。

 間違っても、余計な接触は避けなければならないのだ――。


















――――――――――――


 あとがき


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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