化猫

平中なごん

一 野良猫

 これはナベさんという仕事で知り合った若い男性から聞いた話なんですけどね。


 ナベさん、当時は郊外の一軒家に両親と三人で暮らしていたんですが、ある日の夜に会社から帰宅すると、家の前に猫がちょこんと座ってたらしいんです。


 それも、そこらでよく見かけるような和猫とは違う洋猫で、モカとでもいうんですかね? クリームがかった茶色の長い毛をした猫で、おそらくはペルシアだろうと言っていました。


 でも、首輪はしていないし、ちょっと毛も汚れているんで、どうやら野良猫のようなんです。ただ、洋猫の野良ってあまり聞かないですし、誰かが飼えなくなって捨てたんですかね?


 そんな洋猫が、ナベさんを見るなり何度も膝に擦り寄ってきて、なんともまあ人懐っこいんですよ。


 そこからして、やっぱり以前、人に飼われていたことが窺える猫だったんですが、どうにも可愛くなってしまったナベさんは、その猫を家で飼うことにしたんだそうです。


 家にあげて両親に相談すると、お父さんやお母さんも賛成してくれたので、めでたくこの猫ちゃんはナベさんちの一員となり、名前はサヨちゃんと名付けられました。


 このサヨちゃん、やっぱり人懐っこい性格で、常に甘えてくるんでほんと可愛いんですね。すぐにナベさんちの環境にも慣れて、ずっと前からこの家の猫だったように錯覚すら覚えるほどでした。


 でも、一つだけ困ったことがありまして、サヨちゃん、なぜかお父さんにだけは懐かないんです。


 ナベさんやお母さんには擦り寄ってくるのに、お父さんにだけは眼に殺気を宿し、「ウゥゥゥ〜…!」と牙を剥いて威嚇してくるんですね。


 家族以外の人が家に来た時でも、ナベさん達にするのと同じように膝の上に乗ったりして甘えるんですが、なぜかお父さんにだけはいつまで経っても敵意を向けたままなんです。


 もしかしたら、前に飼っていた家でお父さんに似た人に虐待を受けていたとか、そんなことがあったのかもしれないね……と、ナベさん達は話していたそうです。


 まあ、理由はともあれそんな感じですから、最初は可愛がろうとしていたお父さんも、だんだんとサヨちゃんから距離を置くようになったみたいですね。


 ところが、奇妙なことはそれだけじゃなかったんです……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る