気まぐれ短編「月水面」

つきみなも

一冊目 電車

電車に乗っていた。永い、永い電車だ。

たまに変なやつとか、いつか出会った懐かしいやつと出会ってはまた別れる。みんな乗り換えてゆく。僕は終点まで行くつもりだ。

「お、よう!久しぶりだな。覚えてるか?」

同じクラスだった金山だと、その特徴的なイントネーションで分かった。

「生憎覚えてるよ。はは」

「何だよぅ酷えなあ」

こういうやつに出会うたび、友達ってのはいいものだと感じる。

笑い合えて、家族とはまた違った、何か大きなものがあって。

映画のワンシーンみたいに夕焼けの浜辺を走ってみたいと思える。

「お前今何してるんだ。金山。昔は音楽つくる人になりたいと言っていたが。」

「そうだったっけな?実は俺、成功しちゃってさあ」

「おお、凄えじゃん。」

「まだヒットとは呼べないけど、割とYoutubeで売れてるんだよね」

「頑張ったんだな。おめでとさん」

金山はどこか寂しげに、でも照れて

「おう。」

とだけ言った。その後は僕の隣りに座って、ほぼ黙っていた。

「・・・俺、次で降りる。」

「・・・そうか。」

幾度となく別れは来たが、どうしても慣れない感じだった。

『プシュー』

「じゃあな。お前も元気で頑張れよ!」

「ああ。」

僕はできるだけの笑顔で金山を送り出した。彼はこれからどうなっていくのだろうか。

流れる景色にたまに目を向け、座席に膝立ちをしていた頃を思い出していた。

「あれ。君、ゆうっちだよね?」

またしても聞き覚えのある、懐かしい声だった。

そしてそのあだ名が懐かしすぎて、ちょっと嬉しかった。

「久しぶり。小学校以来だね。」

「幼馴染みだからってそのあだ名をこの歳で使うなよ恥ずかしい。」

「内気なとこ変わんないねえ。それだからあたしがすぐ泣かしちゃうんだよ」

「か弱い男子も増えているんだ。言うなよ」

彼女は急に僕を抱いてきた。

びっくりして頭が考えることをやめてしまった。

「あはは。慣れてないんだー。」

「僕はお人形さんじゃないぞ」

「ごめんって。人肌最近感じてなくてさ、なんか寂しいんだよね。寂しくなるたびにあの頃がより輝いて見えるよ」

僕もよくそう思っていた。

光を見るためには影が必要であるように、輝いた過去あのころ現在いまの闇の中で星のごとく光る。

なんだかそれが虚しくて、その夜はよく過去の夢を見る。

朝になると、虚しさは夢とともに消えている。

「でもさ、今現在がさ、遠い過去になったらまた明るく輝くと思うよ。どんなに苦しくてもさ、時が経てば『あの頃は良かった。あんなことがあった』って言えるようになると思うよ。」

「ゆうっちのそういうところ好きだわー。なんか詩的。」

「そうかな?」

『プシュー』

「あ、私ここで降りるから。」

「ん。頑張ってな。」

「ゆうっちも頑張りなよー!」

まだまだ、終点には程遠かった。

あと何駅で終点かすらも分からなかった。それもあまり知りたくはなかった。

今は24駅目。

永い列車は、続く。

陽が落ち月が昇りまた、堕ちてを繰り返す。

そして何度も陽は落ちようとが必ずまた上がってくる。

24駅を旅する間、一度たりとも陽は昇ることを忘れなかった。諦めなかった。

そして今も、陽は昇ってきている。

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