新説 桃太郎
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
お婆さんが川で洗濯をしていると、ドンブラコ、ドンブラコと大きな桃が流れてきました。
「おやまぁ。これは良いお土産になりそうですね」
お婆さんは大きな桃を拾い上げると、家に持ち帰りました。川に浮かぶだけあり、難なく持ち上げられる重量でした。
家に帰ると、お爺さんとお婆さんは桃を食べる為に包丁で切ろうとします。しかし、その皮はぶよぶよとしていて、刃が通ることはありませんでした。
どうしたものか、と困っていると、突然、桃はプシューと音を立てて蒸気を噴出しながら、カパッと左右に開きました。
そして、その中から現れたのは、男の子の赤ん坊でした。
「私達の為に神様が与えてくださったのでしょう」
子供がいないお爺さんとお婆さんはそう納得し、喜びました。
ちなみに、桃の裏側は硬い金属で覆われており、赤ん坊は保護用のカプセルに入っていたのですが、お爺さんとお婆さんにはそれらが何か良く分かりませんでした。
お爺さんとお婆さんは男の子に桃太郎と名付けました。
桃太郎はすくすくと成長していきました。たったの三ヶ月で凛々しい青年となりました。その強靭な肉体に比類する者は誰一人としていませんでした。
食べれそうにもない桃太郎の入っていた桃は家の傍に置くことにしました。それは知らぬ間に閉じており、風に吹かれても雨に濡れても、不思議と変化のないままその場に鎮座し続けました。
ある日、桃太郎は言いました。
「お爺さん、お婆さん。僕は鬼ヶ島へ行って悪い鬼達を退治せねばなりません。それが僕の役目なのです」
村では海上に突然現れた鬼ヶ島と鬼達に困らされていました。彼らは恐ろしい武器を持っており、村人達には太刀打ちしようもなかったのです。
桃太郎はお婆さんにきびだんごを作って貰うことにしました。その材料として、桃太郎が入っていたあの桃のぶよぶよした皮を一部剥ぎ取って渡しました。そこには物質を必要に応じて状態変化させるナノマシンが含まれていることを桃太郎は知っていたのです。
そうして、桃太郎は鬼ヶ島へ向けて出発しました。
道中で犬に出会いました。桃太郎はきびだんごを与えました。すると、その姿はみるみるうちに変化し、巨大な狼となりました。更には言葉を話せるようになりました。
「この身、主の牙となりましょう」
今度は猿に出会いました。桃太郎はきびだんごを与えました。すると、その姿はみるみるうちに変化し、巨大なゴリラとなりました。更には言葉を話せるようになりました。
「この身、主の腕となりましょう」
今度は雉に出会いました。桃太郎はきびだんごを与えました。すると、その姿はみるみるうちに変化し、巨大なワシとなりました。更には言葉を話せるようになりました。
「この身、主の翼となりましょう」
仲間を得た桃太郎は遂に鬼ヶ島へと辿り着きました。
鬼ヶ島は鋼鉄の城とでも呼ぶべき姿をしていました。今の桃太郎にはその意味が良く分かります。
鬼とはこの星を侵略しにやって来た者達であり、自分はこの星を守る為に送り込まれてきたのです。
鬼ヶ島では鬼達が酒盛りをしていました。この辺境の星に自分達を害する存在がいようはずもない、と油断していたのでしょう。
「それ、かかれ!」
桃太郎の号令と共に姿を変えた犬、猿、雉は鬼達へと襲いかかりました。
狼となった犬は鬼達へと喰らいつき、噛み千切っていきます。
ゴリラとなった猿は鬼達を掴み上げ、握り潰していきます。
ワシとなった雉は鬼達を嘴で咥え、飛んで放り投げていきます。
残念なことですが、鬼達を生かしておくことは出来ません。彼らはまだ未成熟な文明の星を支配しようとした大罪人だからです。
鬼達も必死に抵抗しましたが、ナノマシンによって強化された犬達の前には無力でした。
最後に桃太郎は鬼ヶ島を操作して海底の奥深くに沈めました。いずれ発見されるかも知れませんが、それだけ文明が発展した頃なら問題はないと判断しました。
その際、鬼達の持っていたお宝だけは持ち出しておきました。それらは何ら変哲のない貴金属だった為です。
桃太郎が帰ってくると、お爺さんとお婆さんはその元気な姿を見て喜びました。
文明に影響を与えない為に子を残すことは叶いませんでしたが、桃太郎はお爺さんとお婆さんと一緒に幸せに暮らしました。
おしまい。
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