第二十話
登場人物
ジョニー
グラハム捜査官
ヴェネッサ捜査官
ダイバー
ニールマン保安官
ファイファー医師
ローディス町長
教祖エンジェル
ザンベンカン神父
1:00PM
「バリバリバリ!!」
「ザァァァァァァァァァァァ!!」
この小さな町では、雷が鳴り響くと共に傘を差しても意味がないほど酷い雨が七日間も降り続いていた。普段ならそれなりに人も出歩いているようだが、今はゴーストタウンと化していた。そんな中、五十代半ばの男性が運転し、二十代後半の女性が助手席に乗る一台のクラシックカーが走っていた。
「どうして私達がこんな田舎町まで来なくちゃならないの?」
「しょうがないだろ?六日で六人が殺されとるんだ。地元警察だけじゃお手上げなんだよ。」
「だからって何も本当に私達がこんな田舎町まで来る事ないじゃない。」
「まあ、いいじゃないかヴェネッサ。バカンスだと思えば楽しいだろ?」
「グラハム?あなたのバカンスに着いてって、今まで楽しかったって事がある?」
「そんな事言いながらも、今回の事件のプロファイリングもちゃーんとしとるんだろ?」
「当たり前じゃない!だいたいあなたは、いつも無計画過ぎるのよ。」
「で?いったいどんな奴なんだ?」
「まず間違いなく男性ね。二十代後半から三十代後半。とても頭がいいわ。唯一残されていた足跡からも分かるように、細身で長身。何かに対しての復讐かもしれないわ。」
「復讐?なぜ?」
「さあ?」
「さあ?っておい。」
「だってこれは、私の勘だから・・・・・・・・・。でも、復讐あるいは・・・・・・・・・戒めなのかもしれない。」
「戒め・・・・・・・・・か。」
「バリバリバリ!!」
相変わらず雨は、激しく降り続き、止む気配などまったくなかった。
5:00PM
「やれやれ。犯行現場を五ヶ所回って手掛かりゼロか。参ったのぅ。」
「そんなの分かりきっていた事じゃない。この雨よ?全て流されてるわよ。おそらく犯人は、狙っていたのよ。ハリケーンが直撃するこの時期を。」
「クソヤローが!!」
「ねぇ。犯人をそう呼ぶのやめてって言ってるでしょ?」
「クソヤローをクソヤローと言って何が悪い!こいつは、赤ん坊まで殺しとるんだぞ!」
「私だって許せないわよ。けど、汚い言葉使いは、好きじゃないの。」
「そうかいそうかい。おっと、見えて来たぞ。赤ん坊が殺された病院が。」
「ちょっと待ってよ!何であいつがいるのよ!」
「あいつ?」
「ほら!病院の入口の所よ!」
そう言ってヴェネッサが指差した先には、レインコートを頭からかぶった男が激しい雨に打たれながら二人の乗る車に向かって、両手を大きく振っている姿があった。
「ああ、ダイバーの事か。」
「どうしてここに?」
「どうやら捜査に協力したいと長官に直談判したらしい。」
「知ってたのね!」
「知っとったよ。」
「なぜ教えてくれなかったのよ!」
「言ったとこで、お前さんの怒りを買うだけだろ?それに、わしだってあいつの事は好かん。だが、長官命令には、逆らえんだろ?」
「ダイバー。所謂、超能力捜査官。犯人の心の中に潜り込み、被害者を見つけ出す。」
「付いたあだ名がダイバーか・・・・・・・・・。」
「でもなぜ?ダイバーは、主に行方不明の被害者の捜索を担当しているはずよ?今回のケースは、六人とも発見されているわ。」
「分からんよ。新しい力でも目覚めたんじゃないか?」
「ダイバーと一緒に仕事だなんて、最悪だわ。」
「そう言えば、お前さんの言っとったプロファイリングに当て嵌まるんじゃないか?頭がいい部分を除いてはだがな。」
「そうね。案外ダイバーが犯人かもね。」
「なっはっはっはっはっはっ。だったら」
「グラハム!!」
「馬鹿な!!」
激しく左右に振られているワイパーの先に見えたのは、先程まで両手を振って立っていたダイバーが、地面に倒れている姿だった。
8:30PM
病室の中には、ベットに横たわるダイバーと、そこから少し離れた所で会話をしているグラハムとヴェネッサの姿があった。
「ドクターファイファーが言うには、外傷などは、まったく見られないし、心臓発作や何か持病があるわけでもない。精密検査をした結果も健康体そのものなんでしょ?」
「やれやれだな。」
「グラハム?まさかダイバーが襲われたって言うんじゃないでしょうね?」
「ダイバーは、間違いなく今回の事件の犯人に襲われた。犯人は・・・・・・・・・。」
「ちょっとやめてよグラハム。だいたいドクターは、見た感じ五十代よ?私のプロファイリングに当て嵌まらないわ。」
「おいおい。お前さんのプロファイリングが絶対とは限らんだろ?それに、被害者六人全員が、ここ最近ファイファーの診断を受けとるんだ。」
「それだけでドクターを犯人扱いするのは難しいんじゃない?ドクターが怪しいって言うなら、あの保安官だって怪しいわ。」
「ニールマンか。」
「彼がこの町の保安官として就任して来た日から、今回の事件が起こっているのよ?」
「教団の方はどうだ?」
「教祖エンジェル?」
「二日目の被害者は、教団内の信者なんだろ?」
「教祖エンジェルは女よ?だったら、ザンベンカン神父の方が怪しいわ。最近、教団とよくぶつかり合っていたみたいだしね。」
「町長はどうだ?」
「町長?ローディス町長?どうして町長が殺人なんてしなくちゃいけないわけ?」
「町長選挙の時、何やらえらくもめとったらしいじゃないか。それに、その時のもう一人の立候補者が五日目の被害者。」
「グラハム?こんな小さな町よ?どんな些細な出来事でも、何かと何かを無理矢理にでも繋げる事が出来てしまうわ。それに、今までの人物の中に私のプロファイリングに当て嵌まる人物はいないわ。」
「たまにその自信が羨ましくなるわい。それじゃあ、ここは任せたぞ。」
「えっ?何よ。どこ行くのよ。」
「どこって?捜査に決まっとるだろ?お前さんは、ダイバーの側にいてやってくれ。またこやつが狙われんとも限らんからな。」
「嫌よ!私も行くわ!」
「ここをがら空きにして何か起こってみろ。それこそえらい事だぞ?キャリアに傷が付くぞ?」
「キャリアなんて関係ないわ!私は、ダイバーと一緒にいなきゃいけないこの状況が嫌なだけよ!それに」
「ヴェネッサ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「任せたぞ。」
「分かったわよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうしたの?早く行ったら?」
「のぅヴェネッサ?わしは、こういった小さな町で怪事件が起こるとたまに思っちまうんだよ。もしかしたら町ぐるみの犯行で、それを町民全員で隠しとるんじゃないかってな。」
「・・・・・・・・・。考え過ぎよ。そんな事ありえないわ!」
「なっはっはっはっ。行ってくる。」
「グラハム!」
「ん?」
「気を付けてね。」
「分かっとるよ。」
グラハムは、振り向かずに軽く右手を上げながら病室を出て行った。
11:45PM
「ん?いけない!いつの間にか眠ってしまっていたわ。えっ!?ダイバーがいない!?」
「隣だよヴェネッサ。」
「驚かさないでよ!!」
「シー。奴がここに向かって来てるんだ。」
「奴って?」
「犯人だよ。」
「どうしてそんな事が分かるのよ。」
「困るなヴェネッサ。僕の力を忘れちゃったのかい?僕は、ダイバーだよ?犯人の心の中にダイブしたのさ。」
「犯人は、誰なの?」
「グラハムだよ。」
「まさか!グラハムが犯人なわけないじゃない!」
「ジョークさ。ヴェネッサー、君のプロファイリングで分からないの?僕だよ。」
「えっ!?」
「ぼーく!この怪事件の犯人は、僕だよ。」
「笑えないジョークは、やめなさいよね。」
「ジョークなんかじゃないさ。それは、君も分かっているんだろ?だから、これを探している。」
「いつの間に!」
「君が気持ち良さそうに眠っている間にね。こっそり拝借させてもらったんだよ。ふーん。実際に持ってみると意外と重たいもんなんだね。銃って。」
「なぜなの?どうしてこんな事件を起こしたの?」
「原因は、君達さ。」
「私とグラハムが?」
「僕がどんなに超能力捜査で結果を出しても、君達二人は、頑なにそれを認めようとしなかった。」
「認めていたわ。ただ、信じていなかっただけよ。」
「同じ事さ。知ってるかい?君達は、君達が思っているよりも、周りに影響力があるんだよ?だから、僕がいくら結果を出しても、君達が認めてくれない限り、周りも認めようとしなかった。いつまで経っても僕は、ペテン師扱いさ。僕にしてみたら君達二人は、究極に目障りなんだよ!!だから、君達二人を殺す事にしたのさ。」
「私達が狙いなら、なぜこの町の人達を殺す必要があったのよ!」
「ヴェネッサー。もっと頭を使いなよ。餌だよ。えーさ。怪事件なら怪事件なほど、君達が食らい付くと思ったからね。」
「で、私達が捜査に乗り出した所を見計らって、自ら長官に協力すると申し出たのね。」
「正解。」
「だったらどうして赤ちゃんまで殺す必要があったのよ!五人目の被害者が発見された時点で私達は、ここに来るのが決まっていたのよ!」
「簡単さヴェネッサ。雨が降っていたからだよ。せっかく雨に擬えた殺人事件なんだからさ。途中でやめられないだろ?」
「・・・ソ・・・・・・ヤ・・・・・・。」
「ん?何て言ったんだい?」
「このクソヤロォォォォォォォ!!」
「君は、そのクソヤローに殺されるんだよ?後の事は、僕に任せておいてよ。ちゃーんと事件を解決しとくからさ。」
「カチッ。」
「グラハムが犯人なわけないじゃない!」
「カチッ。」
「このテープに録音した君の声。これを使って、グラハムを犯人に仕立てて、その事実を知った君は、銃で頭をぶち抜いて自殺。こんな小さな町なんて、簡単に騙せるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「安心しなよ。すぐにじいさんもあの世に行くからさ。これで、やーっと僕の華々しい人生が幕を開けるよ。それじゃあヴェネッサ。さよう」
「バタンッ!」
「バン!バン!バン!」
「ドサッ。」
「ヴェネッサ!!」
「グラハム!?どうしてここに?」
「何だか妙な胸騒ぎがしてな。ここに向かっとる途中で病室の方からお前さんの大声が聞こえたんで、犯人と一緒におるって分かったんだよ。まさか、ダイバーが犯人だったとは・・・・・・・・・。」
「グラハム?これで分かったでしょ?私のプロファイリングの正確さが。」
「なっはっはっ。言ったろヴェネッサ。このクソヤローは、頭が悪いと。お前さんのプロファイリングもまだまだだな。」
「ちょっと?犯人をそう呼ぶのやめてって言ってるでしょ!」
「やれやれ。おっ!いつの間にか、雨が止んどるぞ。真ん丸お月さんだ。」
「ふぅ。本当にやれやれね。」
「そうだ!!」
「な、なに!?」
「そう言えばさっき、長官が電話で言っとったんだがな。謎の」
「聞きたくない!どうせ、くだらない事でしょ!」
「くだらなくなんかないぞ。謎の」
「聞きたくないって言ってるでしょ!」
「聞いて損はせんから。今度は、大都会のど真ん中だぞ?そこにな」
「嫌よ!私は、絶対に行きませんからね!!」
「お、おい?どこ行くんだヴェネッサ!おい!ヴェネッサ!オフィスビルの中で謎の」
ヴェネッサの後を追うようにして、グラハムも病室を出て行った。
12:07AM
第二十話
「ところでジョニーは?」
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