第十五話

「ポッポー!」

「行けー!!」

わしは、機関車の運転士をやっとるかっちょいい男の中の男だ。だから皆からは、敬意を込めてこう呼ばれとる。「キャプテン!」とな。機関車の運転において、この西部中を見渡したとて、このわしの右に出るもんなんぞおらん。そして、このじゃじゃ馬を乗りこなせるのも、わしぐらいなもんだ。この雄大な荒野を乗客を乗せて、こいつと走るのがわしの毎日の日課であり、楽しみでもある。しかしだ!その楽しみを邪魔するもんが時折おるってのが、玉に瑕だ。

「キャプテン!!」

「どうだ!奴等も追い付いて来れんだろ!」

「追って来てます!」

「しつこい奴等だ!」

わしらの旅を邪魔するもんの一つに、列車強盗がおる。しかも、数分前からわしとじゃじゃ馬は、奴等と追い掛けっこをしとる。奴等め!わしの楽しみを邪魔しおって!乗客乗員の安全とわしのプライドに賭けて、負ける訳にはいかん!否、追い付かせる訳にはいかん!

「もっと石炭を入れんか!」

「分かりました!」

奴等がいくら列車強盗と言えども、所詮、乗りもんは馬だ!ええぞええぞ。どんどんスピードが上がってきとる。にゃっはっはっ!

「ポッポー!」

これならこのじゃじゃ馬に何者も追い付いて来れまい!ましてや、奴等の馬なんぞ、絶対に無理だ!

「キャプテン!!」

「よーし!このまま次の駅に向かうぞ!」

「キャプテン!!」

「わーった、わーった!焦る気持ちはあるだろうが、祝杯を挙げるなら駅に着いてからだ!」

「駄目です!」

「おいおい!ここでか?いくらなんでも、ここで祝杯は無理だろう!なんたってバーボンが無い!」

「追い付かれます!」

「なにー!!」

本当か?本当に追い付かれそうなのか?この若造が、わしをびっくりさせようとしとるんじゃないだろうな?驚かせてわしのリアクションを見て楽しむ魂胆じゃないだろうな?若い奴等の考えてる事は、分からんからな。どれどれ?確かめてみるかな。わざと大きなリアクションでもとってやるとするか。

「なんだとー!!」

本当だ!本当に追い付かれそうだ!あれ馬か?

「奴等が乗っとるあれ、馬じゃない可能性があるかもしれんな!」

「馬です!」

馬か!そうか!だったら話が早い!

「全速力だー!!」

「はい!」

見ておれ!わしを本気にさせた事を後悔させてやるわい!

「ポッポー!」

そして!じゃじゃ馬を甘く見た事を思い知れ!この列車強盗どもめ!

「にゃっはっはっ!さすがの列車強盗も、これで追い付いて来れまい!」

これで追い付いて来るならば、そいつは嘘だ!

「来てます!」

「うそだー!!」

「本当です!」

あっ、本当だ!しかし、最近の馬ってのも凄いもんだな。フルスロットルの機関車に追い付くんだからな。たいしたもんだ。って、

「ふざけるなー!!」

「キャプテン?」

「おい若造!何で馬が!馬ごときが!機関車に追い付こうとしとるんだ!」

「分かりません!」

「わしにも分かりません!」

いかんいかん。ついカッとなっちまった。こう言う時こそ、冷静にいこうじゃないか。キャプテンとして、冷静に指示を仰がんといかん!

「ワープ!」

「出来ません!」

落ち着け、落ち着くんだわし!

「飛行モードに切り替えるんだ!」

「なりません!」

「なれ!!」

「なれません!」

「そこの赤いレバーを引くんだ!!」

「見当たりません!」

「付けとけ!!」

なんて無茶苦茶言うんだわし!落ち着け、本当に落ち着けわし!

「ポッポー!」

よし!落ち着いた!

「こうなったら限界ギリギリまでスピードを出す!」

「分かりました!!」

頼むぞ!踏ん張っとくれよじゃじゃ馬!

「ポッポー!」

おーし!きたきたきたー!このボジィに響き渡る振動!ハァトゥに伝わる躍動!若い頃を思い出すわい。あの頃は、こんな無茶ばかりしとったもんだ。

「キャプテン!!」

「何だ!!今、思い出に浸っとるとこだ!!」

「浸らないで下さい!!」

「お前がわしの思い出に浸るタイミングまで仕切るな!!」

「追い付かれます!!」

「だったら!!猶の事!!思い出に浸らせてくれ!!ほっといてくれ!!現実逃避させてくれ!!」

「させられません!!」

「そう来ると思って次の手を用意しとる!!」

「何ですか!!」

「例のお助けロボを呼べ!!」

「キャプテン!!」

「何だ!!」

「真面目にお願いします!!」

「うむ!!」

さて、どうしたもんか?これ以上のスピードアップは、じゃじゃ馬を破壊しかねん。

「おい!」

「はい!」

「おい!!」

「はい!!」

「おい!!!」

「はい!!!」

だが、男には、やらんといかん時があるってなもんだ!!

「さらにスピードを上げるぞ!!」

「無理です!!」

「そんな事は、承知の上だ!!じゃじゃ馬を信じるんだ!!いいか若造!!男に」

「もう!!石炭がありません!!」

「なんてこった!!」

「どうしたらいいんですか!!キャプテン!!」

どーするもこーするも、あーするもそーするもないだろうが!

「ポッポー!」

「何をやってるんですか!!」

「考えとるんだ!!」

考えろ!考えるんだわし!考えて考えて考えまくるんだわし!

「その辺にあるもんを燃やせー!!」

「キャプテン!!」

「何だ!!」

「もうやりました!!」

「なんだってー!!」

すっぽんぽんじゃないか!偉いぞ若造!!立派だ!!今のすっぽんぽんのお前を笑う奴がおったら、その前を隠しとるスコップで、わしがそいつを殴り飛ばしてやる!

「ポッポー!」

この汽笛は、わしとじゃじゃ馬からの敬意の汽笛だ!取っておくんだ若造!

「プシュー。」

まあ、現実ってのは、こんなもんだな。そりゃ、止まるってもんだ。石炭で動いとるんだもん。若造の作業着とパンツで動いとる訳じゃないもん。

「シュー。」

じゃじゃ馬よ。ようここまで走り続けて皆の命を守ってくれたな。よう頑張った。後の事は、このわしに任せておけばええ。お前は、ここでゆっくり休んどれ。

「キャプテン!!」

「声デカイんだよ。もう走っとらんのだから、普通のトーンで聞こえるよ。」

「どうするんですか?」

愚問だ若造!勿の論でこうするまでだ!

「シールド全開!」

「完備してません!」

「レーザー砲の発射を許可する!」

「されても困ります!」

「こうなったら秘密兵器の」

「囲まれてます!!」

「なにをー!」

あっ、囲まれとる。完全に囲まれとるよ。まったくもって、逃げ道なんぞ見当たらんほどに、見事なまでに、囲まれとるよ。

「キャプテン。ここは、奴等の言う通りにしましょう。そうすれば、命だけは助かるはずです。」

「若造。」

「はい。」

「保障は、あるのか?」

「・・・・・・・・・ありません。ありませんけど」

「ばかもん!!乗客の命がかかっとるんだ!そんな保障も出来んような事が出来るか!」

「すいません。だけど」

「見てみろ。荒野のサンセットだ。まったく、美しいってもんじゃないか。」

「キャプテン?」

「行くぞ!」

「行くって、いったいどこへです?」

「決まっとるだろ!外へだよ。」

「外に出て行くんですか?」

「当たり前だ!」

「どうするつもりなんですか?」

「戦う!」

「戦うって、武器なんて無いじゃないですか!」

「にゃっはっはっ!武器ならここにある!」

「カード?ですか?」

「男ならポーカーで勝負だ!!」

「それこそ、保障が無いどころの話じゃないじゃないですか!そんな提案をしに外へ出て行ったら、一番最初にキャプテンが殺されますよ!」

「ばっかもーん!お前は!わしが殺されたとこを一度でも見た事があるのか?無いだろ!」

「一度で十分ですよ。」

「さあ、行くぞ!」

「ガチャッ。」

「キャプテン!待って下さい!殺されちゃいますって!キャプテン!!」

さあ、列車強盗ども!目にもの見せてくれるわい!にゃっはっはっ!

「さーてと、リーダーは、どいつだー!!」

「俺だー!!」

「やめましょうよキャプテン。絶対に殺されちゃいますって!」

「うるさい!お前は、黙ってそいつで大事な部分でも隠しとれ!貴様かー!だったらわしとこいつで勝負しろー!!」

「もうどうなっても知りませんよ。」

「奇遇だなぁ。俺もこいつで勝負をつけようと思っていたとこだ!!」

「んな馬鹿な!」

「にゃっはっはっ!だったら話が早いわい!」

吠え面かくなよ列車強盗どもめ!返り討ちにしてくれるわい!!

「ルールは、ファイブカードスタッド!!勝負だ!運転士!!」

「運転士?わしゃキャプテンだ!さあ、来い!列車強盗!!」


第十五話

「サンライズポーカー」

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