第七話

 ここに、二人の男がいる。会話は、朝からなされている。晴天の中。

「ハンバーグ。」

「ハンバーグ?グ、グ、グ、グラタン!あっ!」

「おいおい。」

「強いなぁ。」

「俺が強いんじゃなくて、お前が弱いんだよ。今日まで俺に一度として勝ってないだろ。・・・・・・・・・あれ?だいぶ爪伸びてるなぁ。」

「えっ?」

「ほら。」

「本当だ。切れば?」

「そん時が来たら、そうするよ。」

「そうだなぁ。俺も髪の毛切りに行きたいしなぁ。あっ!そう言えば、花屋のさっちゃん。来月、結婚だってな。」

「ああ、知ってるよ。」

「お前、確かずっと好きだったよな。」

「・・・・・・・・・むかしな。」

「むかし?嘘つけ!今だって好きなくせに。」

「うっせぇ!」

「告白したのか?」

「・・・・・・・・・してない。」

「なーんだよ。してないのかよぉ。待ってたんじゃないの?さっちゃん。」

「まさか!?で、でたらめな事言うなよ。」

「でたらめ?でたらめじゃないよ。俺からしてみれば、何でお前とさっちゃんが結婚しないんだろうなぁ?って感じだよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「奪っちゃう?」

「奪う?」

「式当日にさぁ、花嫁を奪うんだよ。今まさに!二人が誓いのキッスをする瞬間!お前がドアを勢いよく開けて、花嫁に駆け寄る!そして、腕を掴みドアの方へと走り出す!なんか古い映画のワンシーンみたいだけど、ロマンチックじゃない?で、二人が教会の外に出ると、車が用意されてんのよ。もちろん!運転手は、俺ね。」

「何でお前いんの?」

「いいじゃんいいじゃん。お前の人生のビッグイベントに参加したいじゃない。俺はねぇ、世界中の人々がお前ら二人の結婚を認めなくても、お前とさっちゃんの結婚を認める!神様が反対しても俺が賛成する!」

「たまに羨ましくなるよ。お前のその性格。」

「あはは。なっ!いいアイディアだろ?絶対上手くいくって!」

「式に間に合えばな。」

「そっかぁ・・・・・・・・・まっ!だけどあれだ。女は、星の数ほどいるって言うだろ?男ならあんまりくよくよするなよ。」

「してないっての!お前が頭の中で勝手にさせてるだけだろ!」

「あはは。わりぃわりぃ。しかし良かったなぁ。」

「何が?」

「えっ?ほら、晴れて良かったなぁって事。」

「ああ、天気な。」

「そうそう。だって雨とか風とか嫌じゃん。」

「まあな。」

「お天道様が拝める日が一番だよ。」

「お前は、百姓か?一昨日だったっけか?物凄い天気だったの。」

「ああ、あれは、凄まじかったよ。まるで、台風が二つ同時に上陸したみたいだったよ。この時期にだよ?まったく!困っちゃうってんだよ!」

「だから、百姓かって!それに、時期は関係ないだろ?時期は!確かにありえない天気だったけどな。」

「なあなあ。」

「ん?」

「もしかしてお前って今日、誕生日?」

「・・・・・・・・・そう言えば、今日は十七日?」

「そうだよ!」

「お前、よくそんな事を覚えてたなぁ。」

「あれからずっと数えてたからね。任せなさい。」

「お前に任せたらロクな事にならないのは、身を持って体験してるからな。遠慮しときます。」

「それを言うなって。今は、仲良く元気にやってるじゃないか。」

「・・・・・・・・・やれやれ。」

「おめでとう!」

「いいよ別に。思い出したかのように言いやがって。それに、そんなにおめでたくもないっての。」

「照れんなって。こういうのは、縁起もんなんだからさ。とりあえず、素直に言葉だけでも受け取っておけって。プレゼントは、後々あげれたらちゃんとお前の欲しいものをあげるからさ。なっ。」

「はいはい。期待しないで待っとくよ。」

「そうそう。ポジティブ、ポジティブ。人間、ネガティブになっちゃあ、おしまいだよ?いかなる時にもポジティブ!苦しい時こそポジティブ!あれっ?と思ったらポジティブ!」

「なんか薬みたいになっちゃってるぞ。」

「なっ!だから、さっちゃんの事は、気にしない気にしない。」

「なっ!じゃねぇよ!さちの事は、これっぽっちも気にしてないっての。」

「またまたー。」

「はぁー。」

「ほら気にしてる!」

「今の溜め息は、そんなんじゃないよ。」

「じゃあ、なに?どしたん?」

「何て言うかさぁ。俺は、今日でまた、一つ歳をとったわけだろ?なのに、いったい何をしてんだか。と、思ってさ。」

「何もしてない。」

「うっせぇ!何もしてないじゃなくて、何も出来ないんだよ!」

「しょうがないよ。人間それぞれ立場ってもんがあんだからさ。他人が何をしようと、俺らは、俺らだよ。今出来る事を一生懸命にやればいいじゃない。むしろ、今やってる事は、今しか出来ないのかもしれないんだしさ。例えそれが、しりとりだとしても!そのしりとりを一生懸命にやってれば、きっといつか!いつの日か!いつの日にか!!ああ、あの時しりとりしといて良かったなって日が必ず来るよ。来るはず!」

「そんな日来なくっていんだよ!」

「それにしても暇だなぁ。まいったなぁ。なあ、俺らの長い人生の中でも、これほど暇な時間って無いんじゃない?そう思うと何だかこの時間も貴重に思えてくるよな。」

「お前だけだよ。」

「おいおい。ポジティブ、ポジティブ。」

「はいはい・・・・・・・・・。俺らの人生、長いかどうかも分かんないだろ?」

「またまたー。お前の悪い癖だよ?何でもマイナス思考になっちゃうとこ。」

「そう言えばお前。親父さんと仲直りしたのか?」

「何だよ急に。気持ちがブルーになるような話題すんなよな。」

「店継ぐの継がないので大喧嘩したろ?」

「したよ!しちゃ悪いの?するだろ!あの場合するのが普通だろ!して当たり前!しなきゃ損!」

「いっつも、この話題になると怒り出すよな。」

「あったりめぇよ。」

「なぜ江戸っ子?」

「だいたい何で長男だからって親の後を継がなきゃならんのよ!おかしくない?人権侵害だ!差別だ!もっと世の中の長男に自由を!of the people. by the people. for the people.」

「なぜリンカーン?まあな、お前の気持ちも分かるよ。でも、親父さんの気持ちも分からないでもないけどな。」

「何だお前!親父派か!親父派閥の人間か!親父国務長官か!親父書記長か!親父後援会会長か!親父マニアか!おや」

「うっせぇよ!親父国務長官とか親父書記長って何だよ!俺は、お前派でも親父さん派でもねぇよ!」

「お前が親父寄りに意見するからだろ!」

「してないって言ってんだろ!二人の言ってる事は、どっちが間違ってるってわけじゃなくって、どっちも正解だって事だよ。お前がこの先、人生をどう歩もうが、それは間違いじゃないってだけの話だよ。」

「いい事言うねぇ。この眼鏡の人。」

「かけてねぇよ!」

「眼鏡風味な人。」

「どんな味だ!」

「眼鏡。」

「もはや人じゃなくなってんじゃんかよ!」

「じゃあさあ。」

「ん?」

「今のこの現状も間違いじゃないって事?」

「ある意味な。」


第七話

「雪山遭難九日目の昼」


「あっ!!」

「どしたん?」

「・・・・・・・・・見間違えか。」

「・・・・・・・・・それにしても・・・・・・・・・暇だなぁ。」

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