第六話

 いつもの夕方。窓から見えるいつもの町並み。

「ごはんよー。」

そして、いつものママの呼び声。

「はーい。」

いつものように私は答える。そして、調度やり終えたばかりの算数の宿題を机の中にしまい込み、急いで自分の部屋を出た。それから、今日の夕ご飯は何だろう?ってウキウキワクワクしながら階段を駆け下りて台所に向かった。

「今日のごはんは、なーにかなぁ?」

「ガチャッ。」

自然と出た喜びの言葉と同時に台所のドアを開けると、食卓には、パパ、ママ、お姉ちゃん、そして、熊。熊!?熊がいる!?なんで?どうして熊がいるの?しかも、大きい!本格的な熊がいる!なぜ?いつもなら私の横にお姉ちゃん、私の前にパパ、その横にママって感じで食卓を囲んでるはずなのに、私とお姉ちゃんの間に熊!?が座ってる。もしかして、夢?ヤダヤダ!もしこれが夢で、目の前にいる熊が嘘だったら、私が一生懸命やり終えた算数の宿題も嘘になっちゃう。そんなのダメダメ。

「何やってるの?早く座りなさい。」

「う、うん。」

ママ?どうしてそんなに普通でいられるの?ま、まあ、と、とりあえず座ろう。うん。せ、狭い!そりゃそうだよ。普通は、二人並んで座る幅なんだもん。熊がいたらこうなるよね。私、半分出てるもん。お姉ちゃんも半分出てるもん。

「よし。みんな揃ったな。それじゃあ、いただきます。」

「いただきます。」

「いただきます。」

みんなどうしてそんなに普通にしてられるの?

「い、いただ」

「ガォー!!」

「!!」

ほ、吠えた!吠えたよ。隣の大きな熊が吠えたよ。なに?いただきますって事?とてもじゃないけど怖くて横見れないよ。だ、大丈夫なんだよね?私、食べられないよね?いただきますって、私の事じゃないよね?

「パ、パパ?」

「何だ?」

「く、熊がいるよ?」

「あぁ、熊がいるな。」

ちょ、ちょっとそれだけ?おかわりしてないで聞いてよ。パパ、もっとゆっくり噛んで食べないと、消化に悪いよ。ってそんな心配してる場合じゃなかった。そしてママ、いつも思うけど、それは盛りすぎだよ。それじゃあ、昔話だよ。だったら始めからその量で出してあげれば?っていけないいけない、今はそんな事を考えてる場合じゃなかったよ。それよりも今は、このく

「ガォー!!」

「!!」

な、なになに?いったいどうしたの?あぁそっかぁ、熊もおかわりね。ってちょっと!!あんたちゃんと器用にお茶碗とお箸を使ったわけ?すごいよ!あんた、たいした熊だよ。ってなに感心してんのよ。だからママ、それじゃあ、盛りすぎだよ。

「ママ?」

「おかわり?」

いやいや、私は、そんなに食べれませんよ。育ち盛りと言えども、そんなに食べれませんよ。

「そうじゃなくって、熊だよ?」

「熊ね。」

ママー。違うよ。熊って事は、分かってるんだってば。鮭の骨を取ってる場合じゃないんだってば。

「おねえ・・・・・・・・・。」

み、見えない・・・・・・・・・。熊が邪魔でお姉ちゃんがまったく見えない。いるよね?そこにいるんだよね?食べられてないんだよね?

「ママ!私ピーマン嫌いだって言ってるじゃん!」

いたぁ。良かった。お姉ちゃん、ちゃんといたよ。

「好き嫌いするんじゃない。何でも食べなきゃ健康でいれないぞ。」

「いくらパパがそんな事言ったって、食べれない物は、食べれないの!」

うんうん。分かる。分かるよお姉ちゃん。だって私もピーマン苦手だもん。パパは、好きみたいだけどね。だって苦いんだもん。

「熊を見なさい。何でもモリモリ食べてるじゃないか。」

「熊と私を一緒にしないでよね!」

おかしい。おかしいよ今の会話。パパもお姉ちゃんもごく自然に熊を会話の中に織り交ぜてたよ。この熊いったい何者?そうだ!私は、重要な事に気付いてなかった。それは、この熊が本物なのかって事。さ、触ってみようかな?ここは、勇気を出して触ってみようかな?うん!触ってみよう!ゆーっくり、ゆーっくりと、熊に気付かれないように慎重に慎重にと。

「ツン。ツンツン。」

この感触は、間違いないよ。本物だ!

「!!」

気付かれてる!見てるよ。こっち見てるよ。私の事じっと見てるよ。どうしようどうしよう。ツンで止めときゃよかったんだよ。ツンツンいらなかったんだよ。行けるんじゃないか。ツンが出来たんだからツンツンまで行けるんじゃないかと思っちゃったのがいけなかったんだよ。先生も言ってたじゃん。調子に乗り過ぎるところがあるって。馬鹿私!私馬鹿!はっ!

「ググゥ。」

頭撫でたよ。この熊、私の頭を撫でてるよ。本当にいったいこの熊は、何なのよ!うん!ここは、真っ正面から聞いてみよう。先生も言ってた。疑問に思った事は、どんどん質問しなさい。聞く事よりも聞かない事の方が恥ずかしいって。頑張れ私!私頑張れ!

「パパ?この隣にいる大きな熊は、なに?」

「ああ、気付いたか。その熊は





「はぁ。」

二人の男が机を向かい合わせにして、黙々と執筆活動をしていた。

「どうしたんだいN氏?溜め息なんかついて。」

「P氏。何だか行き詰まっちゃったよ。」

「今回の話の事かい?設定に無理があったんじゃないのかい?」

「そんな事はないさ。何処にでもいるような家族。その日常の一家団らんの夕飯の食卓風景の中に熊がいる。発想としては、面白いじゃないか。」

「確かに面白いかもしれない。でも、それだけでは話が広がらないのではないかい?」

「途中までは、上手い事いってたんだよ。」

「オチがなかなか見つからないとか?」

「そう、そこなんだよ。重要なのは、オチなんだよ。ここまできて読んでる人間の発想の上をいくオチが考えつかないんだよ。」

「例えば今、頭の中に思い描いているオチを聞かせてくれないかい?」

「熊が一家を食べてごちそうさま。どう?」

「ちょっと、角度が急すぎないかい?展開的にも無理があると思うな。」

「一周回ってやっぱりこれは、夢でした。」

「この話に夢オチは、合わないよ。現実だから熊が引き立って面白さが出る。夢だったら何だか、がっかりしてしまうよ。」

「だよねぇ。うーん。P氏ならどうする?」

「そうだなぁ。僕なら熊に喋らすかな?」

「P氏っぽいね。」

「それなら、一家の方が熊の家に住み着いてた。ってオチはどうだい?」

「それも考えたんだけどさ。それこそP氏っぽくなっちゃうからボツにしたよ。あくまで僕的な作風で書きたいからさ。うーん。なんかない?」

「N氏らしさなら、次々に動物達がやって来るってのはどうだい?」

「なるほどね。来るって言ってもいろんな動物達じゃなくって、全部熊。いろんな種類のが来て、その熊達をいちいち女の子が詳しく説明する。」

「よさそうだね。」

「でもなぁ。図鑑とかで熊を調べないといけないし、意外と伝わりにくそうだなぁ。」

「N氏は、面倒臭がりだからね。駄目かぁ。」

「駄目だね。そもそも、それでいくとオチが中身に負けそうな気がする。」

「ありえるね。これ鮭って熊が獲ったの?」

「そう!さすがP氏!後々何かに使おうと思って布石で置いといたんだ。」

「じゃあ、設定もあったって事かい?お父さんと熊の出会いとか。」

「やるねP氏!一番最初は、お父さんが熊を拾って来た事にしようと思ったんだよ。それで、御礼に鮭をもらった。それが夕飯のおかずとして出された。」

「それいいと思うよ。」

「いまいちなんだよね。想像したら熊が捨ててあるなんて面白いんだけどね。読み手の頭の中に絵が浮かばないかなと思ってさ。」

「熊が体育座りでダンボールに窮屈そうに縮こまって入っている所とか。」

「ダンボールには、かわいがって下さい。人なつっこいです。なんて書いてあったりね。」

「熊出没注意!とかも書いてあったり。」

「うーん。想像するだけで面白いんだけどなぁ。」

「どうだいN氏。こうやって考えてるのも楽しいけど、この話の結末、そろそろ考えついたのでは?」

「結末ねぇ。結末、結末。結末かぁ。うーん・・・・・・・・・・・・あっ!これだ!よし!これで行こう!!」

男は、生き生きとした表情で、物語の結末を書き出した。


第六話

「第六話」

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