隣の家に住む綺麗なお姉さんに告白したら『暑苦しいデブは無理』と存在自体を否定されてしまった。あまりのショックでご飯も喉を通らずに眠れない夜を過ごしていたら、なななんと激やせして『超絶イケメン』に大変身
第1話 存在自体が暑苦しいデブ。それが僕だった。
隣の家に住む綺麗なお姉さんに告白したら『暑苦しいデブは無理』と存在自体を否定されてしまった。あまりのショックでご飯も喉を通らずに眠れない夜を過ごしていたら、なななんと激やせして『超絶イケメン』に大変身
おひるね
第1話 存在自体が暑苦しいデブ。それが僕だった。
「ま、真由美ちゃん! 出会ったときからずっと好きでした! よ、良かったら僕と! お付き合いをしてください!!」
言った。言えた!
13年間の想いの丈をやっと言葉にできた!
ここは僕の部屋。
只今の時刻は23時50分。
僕は真由美ちゃんが帰って来るのを窓を全開にして眠たい目をこすりながら、ずっと待っていた。
今日は中学校の卒業式があったんだ。
クラスのみんなと行った打ち上げはカラオケ屋さん。
でも打ち上げが終わると、真由美ちゃんは数人の男子に連れられて二次会とやらに行ってしまった。
もちろん僕はお情けで呼ばれただけだから一次会で帰宅。
それが夕方の出来事。
もしかしたら帰って来ないのかも……。と、不安いっぱいだったけど! 帰って来た!
僕と真由美ちゃんの家は隣り合わせで、部屋も向かい合わせ。つまり窓を開ければ真由美ちゃんの部屋が見えるんだ!
まだまだ肌寒い三月下旬。でも僕の心は絶賛オーバーヒート中。
寒さになんか負けないぜ!
って、思っていたのに──。
僕の心は徐々に、極寒の地へと追いやられる。
窓越しに見える天使。真由美ちゃんの顔が悪魔に乗っ取られたかのように、険しさに包まれてしまったんだ。
「は? 嘘でしょ? 笑えない冗談は言わないで?」
あ、あれぇ……。なんだろう。
僕、冗談を言ったつもりはないんだけどな。
「冗談じゃないよ! 本気だよ!」
僕にとって真由美ちゃんはお姉さんのような存在だ。
面倒見がよくてスタイルも良くて綺麗で、学校ではクラスのマドンナとも言われていた!
だからまさかにも、本気で付き合えるとは思ってはいない。それでも、この気持ちは言葉にしないとだめだと思ったんだ。
ごめんね。真由美ちゃん。でも、僕──。気持ちに嘘をついたまま、これ以上は一緒にいれないから。
だから今日、綺麗さっぱり振られるんだ!
「あーあ。なんで今ので察してくれないかな。わたし、冗談はやめてって、言ったよね? 振らなきゃいけなくなっちゃったじゃん。まあ今日で中学校も卒業したし、頃合いかな。いい加減、暑苦しかったし」
あ、あれぇ……。なんだろう。
思ってたのと違う。ここは一言『ごめん』って言われるものだとばかり……。
「ま、真由美ちゃん? そ、それは僕がデブだから暑苦しいって──」
言いかけた言葉は真由美ちゃんの深いため息でかき消された。
「はぁああ。ぜんぶ。存在自体が暑苦しいの。親同士が仲良いとかさ、家が隣同士とかさ。いろいろと気を使うんだよね。部屋の窓を開ければ向かいにあんたの部屋があるし。いい加減、うんざりしてたの」
え。
僕はただ、思いを伝えて振られるつもりだった。
でも──。
今までの時間を。真由美ちゃんと過ごした13年間を否定されるなんて、思いもしていなかった。
「あのさ、この際だから言わせてもらうけど。今日からカーテン開けるの禁止ね? あんたの部屋が見えると虫酸が走るんだよね。13年間も相手してやったんだから、これくらい聞いてくれてもいいよね?」
「……え」
「返事は?」
「は、はい……。わかり……まし…………た」
「よろしい。最初からこうしてれば良かったぁ! あースッキリしたぁー! 今日は最高の日〜!」
満面の笑みを見せたかと思えば、突き刺さるような冷たい視線を向けられた。
「あのさ、なにお通夜みたいな顔してんの? 当たり前でしょ? あんたまさか、わたしと本気で付き合えるとでも思ってたの? 悪いけどわたし、イケメン以外に興味ないの。ましてデブなんてありえないでしょ。鏡見てから出直して来てくれない? って、あ! ああー! 出直されたら困るじゃあん! ってことで、あんた今日から鏡見るのも禁止ぃ〜!」
口調が、僕の知っている真由美ちゃんとはぜんぜん違った。
誰だ、こいつ。……とは思うも、目の前の彼女はどうしようもなく真由美ちゃん、本人だった。
……夢なら、さめてよ。もう、やめてよ……。
願いは届かず、現実は止まってはくれない。
「おい?」
ドスの効いた低い声。真由美ちゃんは窓を指差していた。
あっ。窓閉めないと。カーテン閉めないと──。
大急ぎで閉めてすぐ、唇にしょっぱさが伝った。
「あれ……。あれ……」
それは頬を流れ唇を掠めていた。……出どころが瞳だとわかるのに時間は掛からなかった。
けれども拭っても拭っても溢れ出して、止まらない。
「……うぅ。真由美ちゃん……真由美ちゃん…………」
止めどない想いが溢れて、止まらない。
そのまま体に力が入らなくなると、ひんやりと冷たい床に崩れ落ち、僕はそのまま──意識を失った。
この日──。
僕と真由美ちゃんの思い出はすべて──嘘に変わってしまった。
そして僕の部屋に、日が差すことはなくなった。
遮光抜群のカーテンは僕の部屋から光を、閉ざし続けた──。
+++++
僕と真由美ちゃんの出会いは赤ちゃんの頃。
家も隣同士で親同士も仲良し。そんな僕たちは物心ついたときには隣に居るのが当たり前だった。
一緒に絵本を眺めたり積み木で遊んだり。
幼稚園に通うようになってからもいつも一緒だった。
小学校に上がると、おデブな僕は「ドスコイ」「ハッケヨーイノコッタ」と、クラスメイトから突然に、なんの前触れもなく攻撃されるようになった。
そんな僕を真由美ちゃんは幾度となく助けてくれた。
「邪魔」
と、ひと言だけ。真由美ちゃんが言い放つと男子たちはすぐに道を開けた。
そんな恩人とも言える真由美ちゃんはお菓子作りが大好きだった。
失敗したからと言って、僕の家によく持ってきてくれたんだ。
ちょっぴり焦げたりもしていたけど、とんでもない! ほっぺたが落ちちゃうくらいに超美味しい! 真由美ちゃんの手作りって思うだけで世界にひとつだけの絶品スイーツだ!
だけどもお菓子作りはタダじゃない。ある日、真由美ちゃんはボソッとこぼした。
「あーあ。お菓子作りしたいけど、材料代がなー」
だから僕は毎月のお小遣いをぜんぶ真由美ちゃんにあげた。お菓子作りの材料代の足しになればいいなって。
思って……。
「……うぅ。真由美ちゃん……」
一緒に過ごした時間が嘘だったとわかっても、頭の中は真由美ちゃんと過ごした時間だけが延々と繰り返し──。心をむしばむように、ぐるぐるした。
「真由美ちゃん……真由美ちゃん……」
そして、春休みが終わり。
高校の入学式の日を迎える。
「真由美ちゃん……うぅ……真由美ちゃん…………」
遮光抜群のカーテンは尚も僕の部屋から光を閉ざし続けた。
おとさん、おかさん、そして妹からの度重なる説得も僕の心に届くことはなかった。
三日が経ち、四日、五日…………一週間。
「うぅ……。真由美ちゃん……」
やがて桜は散り、梅雨入りを果たす。
「……真由美ちゃん。真由美ちゃん…………うぅ……」
僕の時間はずっと、中学校卒業の日から止まったままだった。
「……真由美ちゃん。……うぅ……真由美ちゃん………………」
されども──。限界は訪れる。
「真由美……ちゃ…………ん……」
──ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー──
意識が遠のく中で聞こえたのは、サイレン音だった。
リフレイン。僕の中でピーポーピーポー。何故だか心地いいその音色は、まるで天へのファンファーレのようにも聞こえた。
いつぶりだかわからない安らぎに、僕の心は包まれた。
+++++
このときの僕は、まさかにも思っていなかった。
激やせして超絶イケメンになってしまうだなんて、これっぽっちも思っていなかったんだ。
これは僕──
ピーポーピーポーリフレイン。チェケラ!
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