花芽吹く

あんころまっくす

Brand New Day

1

 今日は特別な日だ。

 どのくらい特別なのかというと、たとえば昨日の朝までは病に伏しているような事情でもないかぎり必ず使用人の誰かが部屋まで私を起こしにきていたのだけれど、今日は誰も起こしにこなかった。


 別に冗談を言ったわけではない。

 朝ひとりで起きるという、たったそれだけのことも私にとっては十分に特別な出来事なのだ。誰に起こされずとも自分で起きなくてはならないなんて初めてだったので不安はあったけれど、いざ朝になってみるとすんなりいつもと変わらない時間に目を覚まし、そんな自分に少し感心した。

 ただ、特別な日という以上、朝ひとりで起きて終わり、というわけではない。むしろ今日は始まりである目覚めからさっそく特別だったというのが正確なところだ。


 ともあれ無事に目を覚ました私は寝床を抜け出して朝食をとる。

 閑散とした広い部屋にぽつんと置いてあるティーテーブルの上に、昨日で退職した使用人の女性が昨晩のうちにサンドイッチとお茶を用意してくれていた。

 一晩置かれて少し乾いた作り置きのサンドイッチも、冷やしたのではなく冷めたお茶も、今まで口にする機会はなかった。

 などと言うとサンドイッチやお茶くらい自分で用意すればと思われるかもしれないけれど、私はどちらもしたことがない。サンドイッチを切り分けたことはあっても、ティーポットからお茶を注いだことはあっても、私はハムやお茶の葉がどこに保管されているのかも知らずお湯の沸かし方だってわからない。


 わからずに生きてくることができていた。


 十日も前の私だったなら、こんなことを自覚すれば己の無知と今日までの無関心に酷く恥じ入ってしまうところだっただろう。自分で言うのもなんだけれど、私は一応それなりに勤勉を自認していたのだ。

 けれどもあいにくとそんな気持ちはこの数日ですべて使い切ってしまった。

 私は自分ひとりで生きていくには何ひとつ知らない小娘だったことをいやというほど思い知らされた。そして恥じ入る私を見る者もまたこの数日で残らず去っていった。

 最後まで付き合ってくれた、帰り際に朝食のためのサンドイッチとお茶まで用意してくれた彼女が立ち去った昨日の夜から、この屋敷には私ひとりしかいない。

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