ミリ

蜜咲すず

第1話

 彼女はあまりにも自由だった。


 長い長い夜のように、自由な人だった。

 僕の人生で、彼女のような人はひとりもいなかった。

 そんな彼女に、僕は憧れていたのかもしれない。

 彼女を追いかけても、追いかけても、僕は追いつけなかった。


 最後まで、たったの一度も。





 大学卒業を目前に控えた三月、僕は幼馴染との卒業旅行で神戸にいた。


 店内は混み合い、煙草の煙で目が痛くなる。別れの季節、この時期の居酒屋なんてどこもこんなもんだ。

 僕らは四人で少し大きなテーブルを囲んでいた。

 入店待ちが何組か外で待っているのが見える。外はまだ冷えるだろうに。


「ホテル戻って飲み直そうか」


 席を立つ。

 一週間で顔を見ない日の方が少ない三人。

 普段は考えなかったけど、こいつらはこんなに背が高かったんだな、と、少しボーっとしていたのは確かだった。


「きゃっ!」


 トンッと左腕に何かがぶつかった感覚を感じ振り返ると、女の子がしゃがみ込んでいた。


 白い肌にほんのりと色づいたピンク色の頬、上向にカールした長いまつ毛の下からこちらを見つめる色素の薄い瞳……綺麗だった。


「えっと…あの……だ、大丈夫?」


 困ったように笑う彼女に話しかけられるまで、僕は彼女が綺麗ということ以外は何も考えられなかった。


「あっ!やっ、そっちこそ大丈夫だった?!僕のせいで本当にごめん!」


「うん、平気。いきなりフリーズするからちょっと、びっくりしちゃったよ〜」


 そう言って彼女はふにゃっと笑った。



 これが原嶋美莉との出会いだった。

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ミリ 蜜咲すず @me1xiao

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