第十一話 Sランクの2人・下

「では、参ります…!」


彼女は魔法で剣を作り、そう言った。

それからの彼女の動きは先程までとは打って代わって、一片の迷いも無い動きで、私と純蜃の攻撃を全て受け流している。


しかも攻撃を誘導されて、私の後方に純蜃が居るようになっていた。

その姿はまるで、全てを守る神話の騎士の様だった。


「…少し本気で行きます。『グリフィア流剣術・一ノ剣 不通とおさず』」

「…!」


彼女がそう言った瞬間、尋常じゃない威圧感に襲われたから、少し距離をとる。

これは、以前対峙した災害級の魔物よりも明らかに強い…!

それに、彼女が剣を振るう度にとてつもない風圧が生じて純蜃が出した霧と盾が吹き飛ばされる。そして気付けば、訓練場の霧が完全に晴れ、盾は無くなっている。


「ごめん。【豪嵐の銀猫】さん。魔力が限界だ、私は先に降参だよ…」

「分かりました…」


一足先に純蜃がいかれた。彼は準備さえ整えれば消費する魔力を抑えることが出来るけど、裏を返せば回数は出来ないということ。


しかも彼は魔力の操作が上手いから滅多に霧や盾を消される事も無いのに…それを上回る力で消し飛ばされるとどうにもならない…これは、奥の手を使うしかないか?


___________________自分の1番得意な武器である剣を作り、

あの頃の技を使ってみたが…やはり、私には剣が似合うらしい。訓練場の霧と盾を全て吹き飛ばすとエルバートさんは直ぐに降参した。どうやらあの技は魔力を多く使うらしい。


後はソフィアさんだけだが、ソフィアさんの目は諦めておらず、何かをしようとしているようだ。そこで私は彼女に話しかける。


「ソフィアさん、来ないんですか?」

「ふふっ、これでは立場が逆ですね。では、奥の手を出させて頂きます。ふぅ…」


軽く挑発すると彼女はそう返してきた。そして、集中を始めた。今攻撃しても良いのだが、それは違うだろう。

彼女から発せられる風が更に強くなる。


段々と風は銀色の輝きを纏い、彼女はその姿をハッキリと表した。

手と足に銀色の爪を付けた彼女の姿は何よりも綺麗という言葉が似合い、銀猫の名前に相応しい様相だった。


「スキル発動『銀猫嵐舞』」


彼女がそう呟く。その次の瞬間、彼女の爪が私の目の前にあった。彼女の速度は更に上がり、既に目では追えなくなった為、感覚でその爪を受け止めていた。彼女の攻撃を受け流しながら私は、彼女を倒すために次の技を繰り出す。


「貴女のその技に敬意を評して、行きます『グリフィア流剣術・二ノ剣 国守剣くにもりのつるぎ』」


そうして私が繰り出した技は、彼女に直撃した。この技はシンプルに剣を振り抜く技だが、そこに【宣誓魔法】によって「誰も傷付けない」という条件と引き換えに絶大な威力を持たせた。一ノ剣も同じ仕組みだ。


技を受けた彼女は、そのまま倒れ込み、気絶した。しかし、その体には傷一つ無く、彼女の顔は満足げな表情だった。


「受付嬢さん、これで終わりですか?」

「…はい。試験官2名の棄権、戦闘不能を確認しました。試験を終了します。」


「いやー。フレニカさん、【豪嵐の銀猫】さんの奥の手に対して少しも動じず勝ってしまうとは。これはSランクは合格かな?あっ申し訳ないけど君が持ってる最高火力を見せてもらう試験はやるけどね。」

「分かりました。」


ひとまず試験は終わった様だ。あの時よりも戦闘技能が衰退した世界でここまで強いとは。やはり彼女はあの時の子で合ってるのかな…


「じゃあ、【麗冥の淑女】さん。【豪嵐の銀猫】さんの事頼めるかな?」

「はぁ、だから今は受付嬢です。彼女はこちらで見ますので試験を終わらせて下さいね。」

「じゃあフレニカさん。あっちの的に近接でも魔法でもいいから火力高い技で攻撃して貰える?」


受付嬢さんがソフィアさんを運んでいった後、エルバートさんからそう言われた。

しかし、火力が高い技と言っても、何を使うべきか…あれでいくか。


「魔法でいきます。」

「うん。準備できたらいつでも良いよ。」


これは私が剣の修行をしている時に、遠くの相手に対しての有効打を探していて、【永き祈り】に教えてもらった魔法だ。


「…いきます。『無系統魔法・強撃きょうげき』」


その魔法を直径一メートル程ある円形の的に向けて放つと、的は跡形もなく吹き飛んだ。残っているのはほんの小さな欠片のみだった。


「………一応、あの的は今回の為に用意した今世界にある最も硬い魔法金属、オリハルコンなんだけどな…」

「…あの、試験はどうでしょうか?」


「あぁ、試験は合格だよ。ギルドの方には私が言っておくから後は自由にしてもらって良いよ。依頼を受けるもよし、帰っても良しだね。」


ひとまず試験は終わった。良かった、Sランクに合格したらしい。取り敢えず、依頼を受けるにも少し疲れたので今日は屋敷に帰る事にする。


___________________「いやぁ。凄かったなぁ…」


私は先程試験を終えた1人の冒険者、メイドさん?を思い出しながらそう呟く。

試験中に対峙してて思ったが、尋常じゃない魔力を持っている。


それにソフィアさんに使ったあの技、「グリフィア流剣術」と言っていたけど、既になくなった国の名を冠した剣術を使っているのは、一体何故だろうか?


もしもあの国の縁者だとしたら、あの強さにも合点がいく。いや、まてよ?彼女の名前、そして消えた英雄の真実…

考えすぎかもしれないけど少し調べてみようかな。

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