第六話 お引き取りして頂け…ないですか。

さて、現在私は屋敷への帰路についている。依頼が終わったあとはいつもいい時間なので屋敷へ帰って食事の準備をするのだが、隣になんかいる。ギルドからずっと

【豪嵐の銀猫】さんが着いてきているのだ。いや何かの間違いかもしれない。

一旦話しかけてみる。


「あの、なんで着いてきてるのですか?何かありましたか?」

「お前、強い!私、お前好き!」

「えぇ…」


やっぱり話が通じないのかもしれない。

しかもそのまま着いてきてるし。

そんなこんなで屋敷に着いてしまった。

隣には未だに【豪嵐の銀猫】さんが居る。

うーん。このまま屋敷の中に着いてきそうだなぁ。


「あの、屋敷に着いてしまったのですが、貴女はどうされるのですか?」

「?一緒に行く!」


「あの、困るんですけ」

「行く!」

「…そうですか。」


押し切られてしまった…

Sランク冒険者相手に抵抗するのは流石にまずいので大人しく屋敷へ入れることにする。まずはお嬢様に報告しないとかな…


「【豪嵐の銀猫】さん。こちらへ着いてきて下さい。まずは客室へ案内しますが、その後に屋敷の主であるエレネス様へ挨拶をしてもらいます。」

「ん!」


大丈夫なのか?凄い子供っぽいけど…

ギルドで確認したからSランクなのは間違いないが、急に貴族に紹介しても大丈夫なのか?…いや、もういいや。後で考えよう。

___________________

「失礼致します。お嬢様、お客人が来ております。」

「はい。今向かいます。」


お嬢様が居る執務室の扉をノックして呼びかければ、直ぐに返事が帰ってきた。

しかし直ぐに質問が来る。


「本日の来客は無かったと思いますが、誰が来たのですか?」

「Sランク冒険者の【豪嵐の銀猫】様でございます。」


「……はい?」

「それでは案内致します。」

「ちょっと待って下さい。」


質問に応えたのでそのまま客室へ案内しようとすると止められてしまった。

やはり突然屋敷に来られるのはまずかったのだろうか…


「…何故Sランク冒険者の方が?」

「依頼中に会いまして、そのまま着いて来られました。」


正直に答えればお嬢様は頭を抱えた。

久々に頭を抱えているのを見たな。


「……お引き取りして頂け…ないですか。そうですか…」


私が首を振るとお嬢様はとても悩み始めた。まぁ、突然メイドが世界でも有数の

Sランク冒険者を連れてきたらこうなるな。


「そうですね…フレニカ、案内して下さい。それと、今日は冒険者について詳しく教えましょう。」


謎の気迫のあるその声に私は頷く事しか出来なかった。と、とりあえず案内するか…

___________________

扉を、ノックして声を掛ける。


「お嬢様を連れて参りました。」

「どうぞ。」


返事を聞いた私は扉を開く。

あれ?今の声はとても落ち着いていたが、居るのってあの銀髪の少女だよな?

めっちゃ元気な声の落ち着きのない。

他に誰かいたっけ?

とりあえず中へお嬢様を案内する。


「っ……」


思わず私は目を見張った。

何故ならそこには、私が連れてきた少女ではあるものの、身に纏う雰囲気が全くの別物だったからだ。驚きを悟られないようできる限り表情には出さないようにしたが…


「はじめまして、【豪嵐の銀猫】様。

クレヴィア家、子爵令嬢のエレネス・クレヴィアと申します。」


私が驚いている横でお嬢様が話しかけた。

それに対して少女は、


「ご丁寧にどうも。自己紹介をさせていただきます。私は【豪嵐の銀猫】の二つ名を貰っている、ソフィア・レイエスと申します。よろしくお願いします。」

「宜しくお願いします。」


私は更に驚いた。彼女はずっと二つ名でしか呼ばれていなかったから名前を隠しているのかと思ったら自己紹介で名前を言ったからだ。驚きの連続で困惑している内に話は進んでいく。


「本日は何故この屋敷へこられたのでしょうか?」

「それはですね、私は現在依頼を受けておりまして、その依頼内容が人探しなのですが…私の能力はご存知ですか?」


「はい。人の魔力を可視化して判別できると聞いた事があります。」

「そうです。それでこの街を一通り回ったのですが、探している人物の魔力が町中に広がっていて…探したのですが後は中々入れない場所のみとなりまして、挨拶のついでにこの屋敷へと。」


ふむ。人探し…魔力が見えると。

そして依頼でこの街へ探しに来た。

この前の指名依頼であったことと一緒に考えると、もしかして探してる人物って…

いや、あれは狼だから。

うちにいる姉様は人の形してるから……

私が1人冷や汗をかいていると、


「そうでしたか。それでしたら、屋敷全体を見ていかれますか?」

「いえ。大丈夫です。本人がそこへ滞在するほど魔力が濃くなるのですが、ここは街と同様の薄さなので。本日は突然申し訳ありませんでした。それでは、そろそろ帰らせていただきます。」


そして話は終了したので、やしきの外へ少女を案内する。

…危なかった、姉様が魔力制御を覚えるのがあと少し遅かったら完全にバレてた。

門まで少女を案内していると、


「フレニカさん。」


と、突然話しかけられた。

あれ?私の名前を知って…いや、ギルドで受付嬢さんが言ってたな。

とりあえず返事をする。


「何でしょうか。」

「お前、変わらない!」


そう一言だけ言われた。先程までの雰囲気とは打って変わって、会った時と同じ楽しそうな雰囲気の彼女から発せられたその言葉は、とても懐かしいというイントネーションだった。


そうして、門まで着く。


「今日はたのしかったぞ!またな!」

「…はい、またお越しください。」


彼女の一言で過去の記憶を思い出した。

彼女は、約730年前にあったとある事件の、生き残った少女だ。

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