五十代でもう野心なんて無いのに異世界で魔王退治をする羽目になった

@yamada789

第1話 五十代になるとサラリーマンの出世競争は終わり

最初に)

この物語はフィクションです。

また、物語の中の描写は現実の世界とはまったく関係ありません。

日本を舞台としていますが、日本ではありません。

読み物としてお楽しみください。



会社の同僚たちが帰っていくのを見て、「ああ、もう5時半なんだ」と気が付いた。

朝から問い合わせの電話が鳴りばなし、飛び込みの来客も多く、いつも誰かと話している。

昼食は薬を飲まなければならないため、食べるだけは食べるが、食べたら終わりで、ほぼ休憩もなく定時が来る。

「はあ、しんどい」

この物語の主人公の名前は山田徹(やまだとおる)。52歳。男性。

既婚者であるが、妻には山田への愛はない。単なる給料運搬人として見ているので、独り身よりもある意味でつらい。稼ぎは給与振り込みなので、山田を通さずに妻の手に渡るため、江戸時代の年貢の方がいいのかもしれない。

息子が一人いる。山田は息子を愛しており、そのことは息子もよく知っており、親子間は良好であることだけが、山田の救いであった。

山田がサラリーマンになるころにはバブル景気が崩壊していたため、いわゆる「失われた20年」の時代しか知らない。給料は上がらず、出世はせず、後輩には抜かれ、

職場の扱いも微妙な中高年になっていた。

職場ではクレームが入りやすい業務ばかりを担当し、いつも客に叱られ、上司には責められ、すっかり体も壊してしまっていた。

真面目にやれば・・・と若いころは思っていたが、もう五十代になり、そんなあてもないことが身に染みるようになっていた。体を壊してからは野心もない。とにかく、余計なことをする体力と気力がないのである。

疲れ果てて一日が終わる。

「もう、サラリーマン人生の勝負はついているのに、なにやっているんだろう?」山田も思わないこともなかったが、これからどうがんばって絶対に出世しないことはわかっていた。

出世するには〇〇が必要などと世間ではいろいろというが、上司のお気に入りにならなければ出世しないことをサラリーマンになって気が付いたことが山田の落ち度であった。

山田には「上司の機嫌を損ねない」こと、「絶対に上司からの仕事を断らない」こと、「嫌な仕事はほかの人に回す」ことが性格的にうまくできなかった。

サラリーマンを長く続けていると、この3つが上手にできるものが出世していくことがよく分かった。それをカバーする能力も残念ながら山田にはなかった。

(私には無理だ・・・もう、勝負はついた)

転職を考えないわけではなかったが、現在の会社以外にお金を稼ぐ方法も知らず、たまにハローワークの求人を覗くものの、もう五十歳となると求人も少なく、体力か経験が必要なものばかりで、この会社にいるしか方法がなかった。

それもいつまでいられるか・・・・。

「定年が来るのが先か、リストラされるのが先か・・・」

定年後も働く世の中になっているから、リストラされても、定年でも結局は就職活動をすることになる。

山田にとっての楽しみは家に帰っての息子との会話だけ。それもほんの少しの間。

風呂に入り、寝床に入ると、なんとも言えない感情がこみあげてくる。

「はあ、はやくこんな生活が終わらないかな・・・・」

そんな山田の願いは転生という形で叶うことになる。

本来の山田の願いとは別の形として・・・







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