第一章 始まり

1. 出会い

 本当に突然だった。彼は当たり前のように僕の目の前へ歩いてくると,僕に向かって微笑み,

「初めまして,片割れ2割くん」

と言った。


 僕はと言うと,嫌悪感や拒否感,あるいは歓喜などのたぐいの感情は一切持たず,ただ淡々とその状況を受け入れた。

「片割れ2割」と呼ばれることに対しても,さほど嫌には思わなかった。


 その頃の僕は,少し──大分,疲れていた。肉体的な疲れではなく,心が世間や周囲の環境などからの圧力プレッシャーで,今にも崩れ落ちそうになっていた。


 けれど彼の来訪を何の抵抗もなく受け入れたのは,それとは違う,別の何かがあったからだった。言葉にするのは難しいが,本能に近いような,そんな感じだった。

 彼を見た瞬間,自分の中の何かが微かに揺れ動くような,そんな気がして,それと共に懐かしさのような,はたまた切なさのような感情が胸の中にじんわりと染み込んでいくのが分かった。


 僕が何かを感じるのは,それが久々だった。


 彼の姿が見えているのはどうやら僕だけらしい。そう気がつくまでにさほど時間は掛からなかった。

 まだ僕に向かって微笑みかけ続けていた彼のことを一瞥いちべつし,そして僕は小さく,

「着いてきて」

と,周りに聞こえない程度の声で呟くと,家への道を,いつものように,歩き出した。

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