片割れの記憶へ

うるえ

序章

プロローグ

『20XX年 XX月 XX日



 あの日,僕は "もう一人の" 僕と会った。所謂「ドッペルゲンガー」と言われるやつ。

 ほくろの位置は僕とは反対側の頬にあって。そいつは紛れもなく,鏡写しにされた僕だった。


 でもそいつは僕であり,また僕ではなかった。


 そいつの髪色は白く,そして,僕が受けた傷を表すかのような大きな傷跡が,その顔にはあって。そしてそいつ──彼は,涙を流していた。

普通の涙ではなく,真っ黒で,先にあるものは何も見通せない,言うなればブラックホールのような,そんな色の涙。


 彼は突然僕の目の前に現れ,そしてまた突然僕の前から姿を消した。


 大人になった僕は,今でも時折あの時間を思い出す。

忘れてしまわぬように──きっと忘れることなどないけれど──,あの不思議で温かい時間のことを,ここに記録しておこうと思う。』

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