推理遊戯

ム月 北斗

Q.選択殺人

 私は気が付いたら薄暗い倉庫のような建物の中に居た。

 椅子に座らされていたようだ、手足は縛られていたりはしない。

 目覚めたばかりで視界がハッキリとしない…辛うじて周囲の状況が分かる程度だ。

 コンクリートの床、鉄骨の柱、宙ぶらりんの鎖…光を纏った埃が舞っている。


 状況把握をしていると、私の視界が段々とハッキリしてきた。


 私の目の前には不思議な光景が広がっていた…


 頭を覆うように、麻袋を被せられた人間が三人いる…

 私と同じように椅子に座っている。しかし、私と違ってその人物たちは手足を拘束されていた。

 私から見て一番左の人物は、状況が整理できずあちこちをキョロキョロと、慌ただしく見渡している。

 真ん中の人物はずっと下を向いている。すすり泣いているようだ。

 右の人物は…意識が無いのか、または眠っているのかピクリともせず俯いている。


 しばらく観察していると、建物内に声が響いた。


『一ノ瀬 かオり さま オはよウ ござイ ます』


 一ノ瀬カオリ…私の名前が呼ばれた。

 建物内に響いたその声は、継ぎ接ぎの合成音声のようだ。声色の抑揚もバラバラで気味が悪い…


『本じつ は このよウな 場所に オ越しイただき アりがとウござイます』

「ここはどこなんですか?目の前の人たちは誰なんですか?」


 私に呼びかける声に向かい、抱いている疑問をぶつける。


「あなたは誰なんですか?何が目的なんですか⁉」


 しかし…


『一ノ瀬 さま の 前に居る 人物たち は 罪を犯した者たち です』


 罪?罪って一体何の…


『まず は 一ノ瀬 さま から 見て 左 の 人物 から 紹かイ します』


 すると、一番左の人物を頭上のライトが白く照らした。


『まず 始め に 彼ら は 一つ の "家族" です』


 彼らは家族…私は声を聞き逃さないように集中した。


『そして 彼 は 家族 の 大黒柱 イわゆる 父親 です

 そんな 彼 は 一家 の 長男 を 瓶 で 殴り 殺しました』


 音声はそう告げると、ライトの色が血のように赤く変わった。

 そして、彼の前に頭上から小さいテーブルのような金網が下りてきた。

 その金網には、側面に血のようなものがこびり付いた"瓶"が置いてあった。


『次 に 中央 の 人物 を 紹かイ します』


 頭上のライトが今度は真ん中の人物を照らした、色は元の白に戻っている。


『彼女 は 家族 の 長女 です 先ほど の 殺された 長男 の 姉 です

 そんな 彼女 は 一家 の 次女 妹 に アたる その子 を

 階段 から 突き飛ばし 殺しました』


 父親と紹介された彼と同じように、彼女もまた赤いライトで照らされた。

 今度は彼女の前の床が、ゆっくりと開いていく…

 劇場とかにある舞台装置の『奈落』のようだ。


『次 に 右 の 人物 を 紹かイ します』


 最後に右の人物にライトが当たる。その人物はまだ目を覚ましていないのか、動きが無い。


『彼女 は 家族 の 母親 です

 そんな 彼女 は 次女 を だイ所 の ほウちょウ で 刺し ました』


 彼女もまた赤いライトで照らされると思ったその時だった。

 ライトが破裂し、破片が意識の戻らない彼女の頭に降り注いだ。

 そして父親と同様に、テーブル状の金網が下りてきた。

 そこには一本の先の尖った"包丁"が置いてあった。


「それで…私に何をしろって言うの?」

 額には嫌な汗が出てきた…唾を飲み込み、音声に向かい声を掛ける。

 少し間が開いて、返答が返ってきた。


『一ノ瀬 さま イま から アなた には

 彼ら の 罪 を 裁イて イただきたイ のです』


 裁く…それはどういう…


『アなた が オもウ 本とウ の "悪" を 裁イて くださイ

 そして その "罰" は オなじ むくイ を もって 叶ウ こと でしょう』


 同じ…報い…

 言葉から察するのは安易なことだった。

 "瓶"で長男を殴り殺した父親には"瓶"を。

 "突き飛ばして"妹を殺した長女には"落下"を。

 "包丁"で次女を刺し殺した母親には"包丁"を。

 つまりそういうことだろう…


『アなた が "罰" を アたエた アかつき には

 アなた を ここ から かイほウ する こと を

 約束 しましょウ』


 そういうと合成音声は、ブツンと音を鳴らして途切れた。

 かいほう…解放?私をここから出してくれるということか?


 しかし…


 私の解放のためには―――――


 目の前の人物から"一人"を選び―――――


 殺さなくてはならない―――――

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推理遊戯 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto

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