チートなダンマスはVRゲームを開発したい

@yuzukarin2022

第1話

『おめでとうございます! 15歳になりましたので副賞をお渡しします!』


 朝起きると、頭の中でそう声がした。

 そして、頭の中にプレゼントボックスが現れる。


「そーかよ」


 呟く。

 騙されて人を殺した特典だ。受け取る気はなかった。

 起き上がって、朝の家事をして。学校へ行く準備をして、学校に行く。


 音楽もいらない。ゲームもいらない。漫画もいらない。その資格はない。


 昔々、生まれる前。

 俺は、俺たちは今よりもっと進んだ文明のゲーマーだった。

 VRゲームが大好きで、そればっかりしていた。

 ダンジョンコンテストに応募したのは、楽しむだけじゃなくて、楽しませる側も興味があったから。

 実際に自分のダンジョンがゲームに採用されたら嬉しいと思ったし、副賞のゲーム内アイテムから想像したゲームは面白そうだった。賞品の異世界転生権なんて、本気にしてなかった。

 

 沢山ダンジョンを作った。沢山ダンジョンを攻略した。

 楽しかった。ああ、楽しかったさ。

 最優秀の邪神賞を貰った時は、とても嬉しかった。

 ふざけて邪神の真似事だってした。

 表彰式が終わって、ゲームキャラを作成したら真っ暗になって、赤子として腹に宿っていた。


 最初は記憶が定かじゃなくて、あのコンテストが死因だって気づかなかった。

 現代に酷似した世界に転生出来た事に驚き、ダンジョンや異能に興味を抱いてワクワクしてた。

 大好きなVRゲームこそなかったけれど、ゲームみたいなことが本当にあったんだから。


 転生に関する事を言おうとすると口や手が動かなくなるのは怖かったけど、愚かな俺は気にしてなかった。

 ダンジョンコンテストのダンジョンが流用されてると気付いたのは、4歳の時。


 自分が設定したゲームキャラだと分かったのは、7歳の時。


 俺の作ったダンジョンで両親が命を落としたのは10歳の時。


 何のことはない。転生に関する事を言えなかったんじゃない。ダンジョンに関する事の口外を禁じられてたんだ。

 

 それから、俺は贖罪のために生きている。

 医者になって、人を救う為に、最低限体を鍛えて、勉強して、家事をして、眠る。


 俺が生まれる50年も前に登場したダンジョンは、今も元気に探索者の命を吸い続けている。

 とても副賞を……大虐殺のご褒美を受け取る気にはなれなかった。


 勉強、鍛錬、家事、勉強、鍛錬、家事、勉強、鍛錬、家事……そして人に奉仕するだけの人形として生きていくのだ。

 学校で、推薦の申し込み用紙をもらったので今の保護者である伯父夫婦からサインをもらいにいく。

 

「推薦? 中学を卒業したらもう大人だからな。卒業と同時に家を出て行ってもらうぞ」

「異能があるから、ダンジョンでいくらでも稼げるわよ」


 あはは。俺は贖罪さえも出来ないらしい。


 途方に暮れて、公園でブランコを揺らす。


 奨学金などの制度を駆使すれば、学校へは行けるのかもしれないが、もはやその気力もなかった。


「そもそも生きてちゃダメってことかな」


 ポタポタと涙が溢れでる。


「死にたくない……っ 死にたくないよ……っ」


 涙がこぼれ落ちる。


「物騒な事言わないでください」


 顔を上げると、少年が心配そうにこちらを見ていた。


「誰だよ、お前」

「万年2位のあなたのクラスメイトですよ、首席くん」

「あ……」

「春川 武光です」

「八城 咲也……」

「知ってますよ、首席くん。どうされたんですか?」

「中学卒業したら、家から出ていけって……医者になる事も出来ないんだって」

「確か、八城君のご両親は亡くなられてるんですっけ。かなり高名な冒険者だったはずですが、あれですか。親戚に引き取られて遺産取られて放逐コースだったりしますか」

「うん……」

「ええ……まあ、よく聞く話といえばよく聞く話ですが……。うーん、八城君て異能持ってますよね? ダンジョンで学費を稼ぐ、とかは」

「ダンジョンは嫌いだ。あんな虐殺装置なんて」

「ご両親の事は残念ですが、ダンジョンは虐殺装置ではないですよ。ご両親はわかっててダンジョンに行ったんです。創作物であるスタンピードが起こるわけでもなし、むしろダンジョンは資源を人に与えてくれています。ダンジョンのお陰で戦争が無くなったと言われていますし、ダンジョンで生活している人も沢山います。ダンジョンは恵みです。セーフティネットにもなってます。そんなことをいうものではありません」


 武光はそう念押しした。


「でも、ダンジョン批判は駄目ですけど、ダンジョンに行きたくないというのは尊重します。普通のバイトで学費を稼ぐのは難しいし、それでも医者になりたいなら奨学金とか」

「そこまでして医者になりたくない」

「医者になる為に、あそこまで勉強していたのでは?」

「ダンジョンで父さんと母さんが死んだのは、俺が止められなかったせいだから。その分、救わないといけないと思ったんだ」

「ーーご両親の人生をお前が貶すな」


 武光は、声を低めてそういった。


「ダンジョンで死ぬのは、その人の選択の結果だ。それを否定する権利は誰にもない」


 ダンジョンは恩恵だ、ともう一度武光は言った。


「ダンジョン、好きなの?」

「そうですね。私も医師を目指してるのですが、ダンジョンが好きだからなんです」

「???」

「ダンジョンは、人を殺す場ではなく、成長の場です。虐殺する為だけの場所なら、もっとやりようはいくらでもある。でも、ダンジョンは……特に「悪戯フェアリー」印の「冒険道場」は、その名の通り、まさに道場。成長の場です。あそこは愛に溢れている。ちゃんと基本通りに鍛えれば突破できるようになっている。異能なんかなくても、ちゃんと強くなれる」


 俺のダンジョンだ。

 思わず顔を上げて、じっと武光の整った顔を見る。


「私は、ああいうダンジョンを作りたい。流石に、コアを手に入れて人の死ぬダンジョン作って、なんてやることは出来ませんけど。VRゲームでなら、人は神になれる。私は、冒険道場を、いや、それを超えるダンジョンを、ゲームを作りたい。その為に、医師になるんです。没入型VRゲームを作るには、どうやったって医学の資格が必要になりますから。もちろん、一人では無理だから、仲間も探さないとなんですけど」

「悪戯フェアリーが憎くないの」

「まさか! 憧れこそすれ、憎むなんて!」


 俺の瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。


「ど、どうしたんです、八城君!?」

「俺もVRゲーム作りたい。VRゲームがいい。本当は、ゲーム、ずっとしたくて、大好きで、俺、俺……生きてて、いいのかなぁ」

「いや、それはいいでしょ」


 わあわあと泣いてしまった。武光はずっとそばにいてくれた。


「それで、ええと。仲間になってくれるなら、力になりたいのですが。卒業まで猶予はあるのですよね? 奨学金は僕も調べているので、教えてあげましょうか? 今はもう遅いですが、明日、家に来て資料を見てみます?」

「それより、ゲームの企画書あるの?」

「ありますけど」

「じゃあそれ見たい」

「ええ……。まあ、良いですけど」


 カチリ。

 俺の時計が動き出す音が、聞こえた気がした。

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