第45話 断末魔
シロウ、ワン、サヴォナローラを包み込むように、死の光は放たれる。
神は肉壁の下でけたたましい笑みを浮かべていた。
これで、完全な勝利。
三人には、対応することができないのは事実。
しかし、神による死の光は、三人に届くことなく霧散する。なぜなら、三人に付与された防御魔法により、十分な効力を発揮されることがなかったためだ。
神はこれに対して動揺する。
これほどに高位な防御魔法。展開速度も、コウガと並ぶほどの精度である。
しかしながらコウガは魔法の行使などできない状態。それは神からも十分に理解できていた。
だからこそ、突如出現した高い魔法に驚いたのだ。
同時に、シロウとワンが放った攻撃が着弾する。
神を仕留めんとする攻撃を受け、肉壁は完全に崩壊した。
「君たち……どうして……」
攻撃を食らった神は、致命の一撃と言わんばかりに体を地面に伏す。
断末魔のような声を上げながら神はぎょろりと周囲を見据える。そこには、どういうわけか突然現れた、クレセントの姿があった。
クレセントは目に一杯の涙を浮かべ、神のことを見下ろしていた。
「……あたしは、最後まで、あなたのことを信じていました。いえ、あたしだけじゃない。この世界の人間、すべてが、信じていた」
「信じていた、今は、信じてくれていないのかい?」
「えぇ。皆、真実を知っています。すべての黒幕があなただということを」
ずたぼろになった肉体。神には既に、この状況から対抗できる手段がない。
それでも、神は大声を上げて笑い、嘲った。
「あっはっは……そう、僕が黒幕。この世界の生態系も、君たちも、僕が作った。ここは僕の箱庭。それなのに君たちは、創造主に反発しやがって」
「もちろん、反発するつもりなどありませんでした。あなたが、転生者なるよそ者をいれなければね」
「教えてやるよ、ここにいる全員、ただの傀儡でしかない。僕が楽しく遊ぶための、児戯でしかなかった。僕がいなけりゃ、全員ここにいなかったんだよ」
「素敵なお話ね。別の世界から、新しい人間を引きずり込む、そんな素晴らしい力があるが故、こんな結末になるなんて」
クレセントは自らの杖を魔力で強化し、それを頭上へ向けて振りかざす。
肉が爆ぜる嫌な音が周囲に響くと同時に、神はびくんびくんと痙攣する。その攻撃はほぼ間違いなく、神の命を奪うものだった。
しかし、神は最後っ屁と言わんばかりに、断末魔を上げる。
同時に朽ち果てた肉体が突然動き出し、肉壁が最期の喘鳴を轟かせた。
「あああああああああああああああああああああ」
それは意識を持っているというよりも、肉体の反射のようなものだった。
それでも神ほどの膂力があれば、周囲を巻き添えにして全員を道連れにすることくらいはできるだろう。
その変化に気が付き、いち早くシロウは行動する。
半自律する神器を体にまとい、肉体が蠕動する神の懐に潜り込む。
同時に一瞬で体をかがませ、強烈なアッパーを打ち込む。それは、いつかアベルにされた攻撃と全く同じものだった。
「終わった、のか……?」
サヴォナローラは思わずそう呟く。沈静化した神の肉体を見てようやく、その場にいた全員が戦いの終わりを理解する。
すべてが終わった。
ようやく、神によって翻弄されたこの世界が解放される。
「答え合わせをさせてくれ」
神が完全に息絶えてから、東西南北各エリアのギルドの面々が集められた。
未だ、治安の維持は困難を極めており、各エリアは混沌としていった。そんな中で、すべての顛末を知るコウガは、この世界で起こった出来事を説明する。
「まず信じられないと思うが、ここはあの化け物によって作られた。ここにいる、我々四人を除いて」
その言葉に、 その場にいる全員がざわめいた。
先ほど、おかしな生命体が自分たちを作り出したなんて、おかしな話である。しかしながらそれに対して、コウガは更に過去の出来事を遡る。
「理解できないのは当然だ。実際、あの化け物が人間を作ったわけじゃない。この世界そのものを作って、最終的にここが出来上がった。いわば、物理定数が人間の都合の良いようになっているみたいなもんだ」
コウガの話に口を挟んだのは、愛弟子ともいえるクレセントだった。
クレセントはを大きく挙手をして冷静な調子で続ける。
「はーい、難しい話はこの際はいいわ。大切なのは、あの神様がどうしてこんな状況になったのか、ということよ」
「あぁ。そこが大事な話だ。端的に言うと、あの怪物の目的はただの実験だったんだ」
「実験というと、この世界で人間の生態系を見ていた、ということ?」
「細かなことは分からない。難しい状況だから、最初から話をしようか」
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