朧げな前世の記憶の物語り
アオヤ
朧げな前世の記憶の物語り
私には前世での記憶がある。
でも、記憶なんて生まれてからの事を全部憶えられている人なんて誰もいない。
断片を朧げに憶えているだけだ。
私の朧げな記憶は顔の分からないお兄ちゃんとの思い出だ。
そのお兄ちゃんが子供の頃は私と一緒にお風呂に入ったりしていた。
小さかったお兄ちゃんは私が頭を洗ったりしてあげてた。
お兄ちゃんは私が髪を洗ってあげないとシャンプーすらまともに使おうとしない。
「汗臭いままに成っちゃうからよく洗ってね。」
そう言っても私の言葉なんて子供のお兄ちゃんには全く届かなかった。
「よく洗ったところで、すぐ汗かいちゃうんだから意味ないよ。」
「そんな事ないよ! よく洗うのは汗がよく出る様にする為だって言われたもの。」
私は反論するが・・・
「女の人なんか髪の毛が長いから洗うの大変そうで余計に意味ないよ。」
「えぇ〜? 女の人の髪のにおい嗅いでいたじゃない?」
お兄ちゃんは子供のくせに少し顔があかくなった。
恥ずかしそうにしていたので面白くなってくすぐってやった。
子供のお兄ちゃんはくすぐったがりやだ。
私が背中やお腹を触っただけでキャッキャッ言ってた。
お兄ちゃんもやり返そうとするが私の方がチカラが強いから何も出来ないで悔しがっていた姿は印象に残っている。
そんな子供のお兄ちゃんを私は見守りながら楽しい時間が流れていく。
お兄ちゃんはやがて成長してバイクに乗るように成る。
そんなお兄ちゃんの後ろに私も乗せてもらった。
ヘルメットの隙間から入ってくる風が心地良かった。
その時のお兄ちゃんの背中は暖かくて、いつまでもその背中の温もりを感じていたかったんだ。
身体に直に伝わってくる振動とウルサイ音は記憶の中に深く刻まれていた。
車の免許をとると買い物にも一緒に連れて行ってくれた。
もちろん私が行きたい時間、行きたい場所にだ。
そんなお兄ちゃんが隣に彼女を乗せてドライブする様になって、お兄ちゃんを取られたみたいで私はとっても哀しかった。
時は進みやがて私は記憶を無くしてしまった。
あんなに長い時間一緒に居たのに、眼の前に居るお兄ちゃんの事が分からなく成ってしまった。
私は一人ぼっちに成ったみたいに感じて哀しかったんだ。
そんな哀しい気持ちで私は寿命を迎える。
生まれ変わった私は3歳で自我が芽生える。
そしてその時から記憶をたどってお兄ちゃんを捜し初めたんだ。
でも、どこにも居ない。
哀しかったよ。
今日、パパに頭を洗ってもらった。
パパはお風呂場にお座りして、私の頭をパパの膝の上に載せて・・・
パパの顔を下から見上げてなんだか懐かしい気分になっちゃた。
思わずくすぐってみた。
反応が面白い。
そしてなんだか懐かしい。
いつまでもこうして居たい気分だった。
私が保育園の年中の節分の日、鬼のお面と豆まき用の豆を貰ってきた。
普通の家庭では父親が鬼役なんだって!
パパはお姉ちゃんとママに豆をぶつけられて可哀想だった。
「パパに豆をぶつけないで!」
そんな言葉が自然に出できて、目からは涙が溢れた。
私は『あぁ、私はパパが大好きなんだ。』って思った。
その後、またお風呂で頭を洗ってもらった時に私は気がついた。
私が前世で好きだったお兄ちゃんは今世ではパパだったんだ。
そしてお兄ちゃんとパパの顔が重なった。
同時に私は少しガッカリした。
『私の運命の人じゃなかったんだ? 』
でも、好きだよパパ!
私が大人に成るまでよろしくね。
私の心のピースが一つはめ込まれた。
朧げな前世の記憶の物語り アオヤ @aoyashou
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