意識
とても長い時間だったのか、それともあっという間だったのか。
手術が終わって、先生から説明があった。
「手術は、無事に終わりました。外科的なことは大丈夫でしょう。ですが…」
「え?」
「脳に大きな損傷が見られます。まず、目が覚めることが目標です」
「それって…」
「それから申し上げにくいのですが、意識が戻っても何かしらの後遺症があると思います。それがどういうものでどれくらいになるかは、まだわかりません」
お母さんが私の肩を抱きしめていてくれた。
そうしないと私はその場に倒れてしまいそうだったから。
「意識が…」
「大丈夫だって、すぐに目を覚ますだろうからさ。浩美ちゃんもちょっと横になって」
溝口君が気遣ってくれる。
「そうよ、浩美。あなたも体を大事にしないといけないでしょう?少し休みなさい」
お母さんも心配してくれる。
「でも…」
集中治療室のガラス越しに誠君が見える。
_____大丈夫、きっと大丈夫…
そう思おうとするけど、ピッピッピッと繰り返される電子音が、ふとした拍子に止まってしまうんじゃないかと思えて、震えてくる。
「あの…こちらは、永野さんの持ち物です。お持ちください」
トレーに入れられた、携帯、タバコ、ライター、免許証、財布、ハンカチを渡された。
所々に赤い血液が付いている。
私は財布から少しはみ出している古びたメモのようなものを見つけた。
何回も開いたり折ったりしたらしく、折り目が薄くなっている。
「あっ、これって!」
私が手紙に描いて送ったイラストだった。
あの公園で2人で海を見ているところを、描いたもの。
_____こんなものをずっと大事に持ち歩いていたんだね
誠君がブラジルに行ってすぐに描いたから、もう4年?5年?それくらい前のものだ。
_____どんな思いでこれを持っていたんだろう?
あの日からずっと、誠君の気持ちは変わっていなかったのかもしれない。
誠君を取り囲む状況が、変化していただけで、中身は何も変わってなかったんだ。
その、折り目が薄くなったメモを、ぎゅっと握りしめた。
「誠君、目を覚まして。やっとこれから幸せになろうとしてるとこなんだから…寝てる場合じゃないよ」
ガラス越しに誠君に話しかける。
お父さんがそっと背中に手を添えてくれた。ふんわりと温もりが伝わって、やっと今になって涙が出た。
「浩美、誠君ならきっと大丈夫だよ。お父さんになるんだからね、頑張ってくれるよ」
「…うん……」
◇◇◇◇◇
それから1週間。
ずっと眠り続けていた誠君が、そっと目を覚ました。
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