突然に

溝口君は、ノンアルのワインと花束を持ってやってきた。


「おめでとう、神谷かみや…じゃなかったな、浩美ちゃん。お母さんになるんだって?」

「ありがとう。あがって、まだ誠君は帰ってないんだけど」

「お邪魔しまーす。新婚さんの家って、なんかあったかくていいねぇ」

「そう?」

「これ、あの時の写真を?」


玄関に飾ってあった額縁の絵。


「そう、イラストにしてみたの」


少しばかりのご馳走を作っておいた。

溝口君には、とてもお世話になったから。

昔話や、最近の話まであれこれ話し込んでいたら、もう8時を過ぎていた。


「あれ?誠、遅いな。今日は残業もやめて早くあがるからって言ってたんだけど」

「うん、溝口君が来るから早く帰るって言ってたよ。先にご飯食べちゃおっか?」

「うーん、あと少し待ってみよう。きっとお腹すかせて帰ってくるから」

「そうだね…」


携帯を開いてみたけど着信もメールもなかった。

どうしたのかな?


ぴろろろろろろろろ🎶

私の携帯に知らない番号からの着信。


_____誰だろ?


「はい、はい、そうですが……えっ!!」


男の人の声だった。

とてもゆっくり話してくれるのに、話の内容が耳に届かなかった。


がちゃんと、携帯を落としてしまった。


「浩美ちゃん、どうした?誰から?」

「……」

「俺がかわるね」


携帯を拾って、返事をしてくれる溝口君を、私は夢の中の景色として見ていた。


_____夢?夢だよね


「はい、わかりました、すぐに行きます」


電話を切った溝口君が、私の顔を真っ直ぐに見て言った。


「浩美ちゃん、行くよ、早く!!」


帰宅途中の誠君の車が、飛び出した子供を避けて電柱に激突して、救急車で運ばれた。


言葉は頭の中にあるのに、どういう状況なのかわからない。


「鍵は閉めたから、行くよ」


私はされるがままに、溝口君の車に乗った。


「浩美ちゃん、しっかりして。大丈夫だから、誠はそんなやわな奴じゃないって、俺が一番知ってる。結構ケロッとしてるから。とりあえず今は誠のところへ行くよ」


市内の救急指定病院に着いた。


「ちょっとここで待ってて、聞いてくるから」


夜間出入り口で私は1人、立っていた。

頭の中は空っぽだった気がする。

何も考えられなかった。


「こっちだよ、浩美ちゃん、まだ手術中だって。行くよ」


手術室の前の長い椅子。

これ、もうちょっと座り心地よくしてくれないかな?長時間座るのはキツイな、なんてどうでもいいことを考えていた。


「浩美ちゃん、携帯貸して。浩美ちゃんの家にも連絡しないと。番号、入ってるよね?」

「え?う、うん…」


私の携帯で、溝口君が電話をかけている。


_____あ、そうか、お父さんが来てくれるから大丈夫だ…


何故かそんなことを考えていた。

しばらくして、パタパタとスリッパの音がして、お父さんとお母さんと太一がやってきた。


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