探す
新年が明けた。
肌を刺すほどの冷たい風に、マフラーをクルクル巻き付ける。
「お母さん、ちょっと出かけてくるね」
「あまり遅くならないようにね、今日はとっても冷え込むみたいよ」
私は歩いて駅まで向かった。
誠君の家はこの駅からローカル線で7つ目の駅で降りる。
住所はメモしたし、念のため、繋がらなかったけど電話番号も書いてきた。
今日で、今年になって7日が過ぎる。
_____去年の今頃は、今年こんなことになっているとは想像もしなかったのに
小さな無人駅に着いた。
駅舎の前に古びた地図があった。
『湯の前町垂坂方面こちら➡︎』
多分こっちだろうと見当をつけ、歩き出す。
駅から自転車で15分くらい、歩くと1時間くらいだよと聞いたことがある。
ほとんど人影もなく、片側一車線の道路にも行き交う車は少ない。
_____この道を、誠君は通ってたんだ…
高校生の時には、そこまで誠君のことを知らなかった。
誠君のことを詳しく知ってていいのは、優子だけだと思っていたから。
こんなことになるなら、もっとちゃんと聞いておけばよかったなと思う。
でも、こんなことになるなんて、あの当時、誰が予想しただろう?
メモの番地を確認する。
間違ってはいないはず。
この角を曲がった辺り。
ドキドキしながら家を確認した。
そこには、多分誰も住んでいないだろうと予想ができる二階建ての家があった。
表札にはなにも書かれていない。
_____やっぱり、誰も住んでいないのか
庭の隅に、錆びた自転車があった。
あれはきっと、誠君が駅まで行くのに使っていたものだろう。
車輪のカバーのところに、誠君が好きだったキャラのステッカーが見えた。
他には、誠君を思わせるものは何もなかった。
私は仕方なく、来た道を帰る。
やはり、帰ってきていないのだろうか。
冷え切ってしまった手を擦り合わせて歩いていると、ピピッとクラクションが鳴って車が横にとまった。
「
「あ、溝口君」
「もしかして、誠の家まで探しにきたのか?」
「…うん、でもダメだった」
クシュンとくしゃみが出た。
「よかったら乗れよ、駅まで送るから」
「ありがとう」
溝口君の車はいつもの仕事用とは違って、大きなワンボックスだった。
暖房が効いて暖かい。
「あそこの家族はだいぶ前に引っ越したと聞いたからなぁ、どこに行ったかはわからないけど」
「そうだよね、電話もつながらなかったんだけどもしかしてって考えちゃって」
「俺も、知り合いとかに聞いてみるからさ、しばらく時間くれないか?俺も気になってるんだよな」
「うん、ありがとう」
「だからさ…」
「ん?」
「そんなふうに、とぼとぼ歩くなよ。まるでそのまま消えてしまいそうな雰囲気だぞ」
「そんな…」
「日本に帰ってきてるとしたら、きっとこっちにいると思うんだよな、誠はなんだかんだ言ってここが好きなんだと思うよ。
「うん」
「じゃ、何かわかったら連絡するから、待ってろ」
「うん、ありがとう」
駅から帰りの電車は、少しだけ元気が出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます