帰省

あの頃は、なんだか複雑な気もした。

けれど大好きな親友と大好きだった元彼が付き合っても、イヤな気分にはならなかった。

誠から届いた手紙も、同じような内容だったから。




◇◇◇


今になってそんなことを思い出すなんて、不思議。

甲子園の映像から、懐かしいことを思い出して、ノスタルジックな気分になった。

後になって思えば、あれは予感だったのかもしれない。




それから2日ほどして、郵便物が転送されてきた。

引っ越してしばらくは転送されるように手続きをしていたことを思い出した。


_____あー、まだ転居の知らせを忘れてるとこがあったか


真っ白な封筒の差出人は、神谷かみや昭三しょうぞう…浩美のお父さんの名前だった。

思いもかけない人からで、何故か緊張しながら封を切る。


中から出てきたのは、厚手の紙に印刷された告別式の挨拶状だった。

それも、亡くなったのは、誠と浩美、2人での連名。


_____え?なにこれ、おかしいでしょ?


姓が同じ永野ということは、2人は結婚していて、そして同じ日に亡くなった?


私は急いで卒アルを出して、同じクラスで2人と仲がよかった人を思い出して

Facebookで、検索した。


_____いた!溝口みぞぐち君!


《久しぶり》

〈ちょっと聞きたいんだけど、誠と浩美のこと…〉

《あ、聞いた?》

〈訃報の知らせが届いた、ね、どういうこと?なんで?事故?〉

《今週末でも帰って来れない?会って話さないと長くなるし》


私はカレンダーと予定を確認する。

何年ぶりかで、遠い故郷に帰ることにした。



◇◇◇



今は故郷から遠く離れてしまったけれど、帰省する時は新幹線と決めている。

飛行機は早いけれど、飛行場から実家まではさらに2時間かかることを考えたら、駅から10分で済む方が早い。


走り抜ける景色を、車窓から1人眺める。

だんだんと景色が変わると、不思議と空の色や流れる風までが変わっていく。

懐かしい空気に深呼吸をして、終点の駅に降り立った。


私が今住んでいる所より、乗客はとても少なく、慌てて降りていく人もほとんど見かけない。

この、どこかのんびりとした時間の流れも故郷に帰ってきたことを知らせているみたいだ。


「おーい!渡辺!こっちこっち!」


改札を抜けたところで、Facebookで連絡をとった溝口みぞぐち君が待っていてくれた。

クルクルとした天然パーマは、あの頃と少しも変わらなくて、すぐにわかった。


「ホントに迎えに来てくれたんだ、ありがとう!」

「なんだかんだでここらも、変わったからなぁ。昔よく行った店も無くなってしまったよ。待ち合わせしようにも、どこがいいかわからなくてさ、結局ここまで来ちゃった」

「私はとても助かるけどね」

「とりあえず、話せるところに行こうか?少し走れば、喫茶店かファミレスならあるから」

「うん」


荷物、持つよとさりげなくバッグを持ってくれた。


「ホントだね、駅の中も昔と全然違うよ」

「だろ?俺はまだ地元だからいいけどさ、たまにしか帰って来ないやつは、来るたびに驚いてるよ。人口は減っていってるのにね」

「そうか…廃校だもんね…」


溝口の車に乗り、国道を南へ向かった。


廃校になったとはいえ、校舎があった場所が近づくとなんとなく昔の面影が残る場所もあった。


_____誠とよく、この歩道橋を歩いたなぁ…


暮れかかった空は、あの頃とひとつも変わらないように見える。

私はこんなに変わってしまったのに。

そして、誠と浩美は、もういないというのに。






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