思い出

夏の甲子園を見ていた。


学生の頃は、まともに歌ったこともなかった校歌。

歌詞の意味もわからず、魅力も感じなかった歌。

なのに一生懸命頑張った球児が歌うと、どうしてこうも晴れがましく気持ちよく聞こえるのだろう?


_____どんな歌だったっけ?


ふと思い立ち、ネットで母校の検索をしてみる。


【〇〇高等学校が83年の歴史に幕を閉じた】


_____うそ、廃校?


卒業してもう15年ほどが経つ。

誘われた同窓会にも出席していなかったからか、廃校になったことを今まで知らなかった。


故郷は遠きにありて思うもの。


それは、何かしらのカタチが残っているから思えるものかもしれない。

校舎もなくなってしまうと、帰省したとしても思い出がよみがえりにくい気がする。


_____高校生の頃が一番、思い出に残っていたのになぁ…


あの頃流行った、サイン帳を引っ張り出してみた。

卒業式を前に、仲のよかった友達に1ページずつ何かを書いてもらうもの。


漫画が書いてあったり、手紙みたいな物があったり、四字熟語だけ、というのもある。

読み返して、笑いがこみあげる。


_____あぁ、そう!みんな同じことが書いてある


“誠と結婚するときは式に呼んでね”

“もう、あっちで同棲しちゃえば?”

“やっとラブラブを見せつけられなくてすむわぁ”


高校生の頃付き合っていた人、永野ながのまこと

誠実に私のことを好きだと言ってくれた人。


“二十歳になったら結婚しよう!”


どちらからともなく、そんな約束をしていたのに、それは叶わなかった。


ハラリと、サイン帳から落ちた一通の手紙。


渡辺わたなべ優子ゆうこ様”


少し癖のある筆跡で書かれた私の名前。

25才になる少し前に、親友の神谷かみや浩美ひろみから届いたもの。


“誠君とお付き合いすることを、許して欲しい”


許すも何も、その頃はもう誠と私は付き合ってなかった。

でも、わざわざそういうことを報告してくるところが、浩美ひろみらしい。


_____そういえば、誠と浩美はどうしてるんだろう?




高校を卒業して、私と誠は隣県の企業にそれぞれ就職した。

同じ会社ではなかったけど、電車一本で会える距離だった。

せっせと働いて、貯金に励んで早く結婚したいね!といつも話していた。

この気持ちはずっと続くと、卒業してすぐの頃までは思っていた。

けれど、少し離れて違う環境にいると、気持ちは変わってしまう。


“二十歳になったら…”


そう、二十歳になって、それぞれが見ている未来の姿がズレていることに気づいた。


そして多分、私の親友の浩美はずっと誠のことが好きだった…私はそのことに気づかないふりで、誠と付き合っていた。





◇◇◇


高校生の頃、誠は美術部でたくさんの油絵を描いていて、たまに受賞もしていた。

付き合ったきっかけは、ある日突然私のクラスにやってきて、彫塑のモデルになって欲しいと言ってきたから。


「裸婦像じゃないでしょうね!」

「高校生でそれはハードル高いって!首から上だから」

「美人にしてくれるならいいよ」

「デフォルメしちゃったらごめん!」

「なに?それは」


「強調して表現するってことかな?」


話に入ってきたのは、同じクラスになって一気に仲良くなった浩美だった。

浩美はバスケ部と美術部の掛け持ちをしていて、水曜日だけ美術部にやってくる。


「強調?美人になるならそれでもいいけど」

「いや、冗談だよ、普通に作らせて」

「普通が酷かったら怒るからね」

「真面目にやるよ、秋の県の文化祭に出すつもりだから」

「私も何か出品しようかなぁ?ね、誠君、どう思う?」


浩美と誠は、美術部同士ということもあって話も合うし、いつもなにかしらでじゃれあっていた。

兄と妹?そんな感じで。





























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