第231話 共同作業開始だね!

「うるさいな。さっさとくたばれよ」


 魔法を警戒して数歩後ろに下がる。


 また魔法を使って姿を隠そうとしたのだが、レックスが瓶を取り出したので中断する。


 あれは回復ポーションだ。


 新勇者となれば、貴重なアイテムも支給されているか。


 飲まれたら面倒なことになるので使うのを止めたいが、レックスを中心に竜巻が発生して邪魔をされてしまった。


 周囲に落ちているゴミや建物の破片を巻き込んでいるため、影すら見えない。


「セラビミア! あれを、何とかできないかッ!」


「コレを外してくれるなら」


 首輪を指さしながら言われてしまった。


 さすがに魔力が使えない状況では、何も出来ないか。


 打つ手なし。


 距離を取りつつ様子をうかがっていると、竜巻の勢いが弱まってレックスの姿が見えた。


 俺がつけた傷は塞がっているようで、血は止まっている。


 しかも造血の作用まであるのか顔色まで良い。


 振り出しに戻ってしまった。


 いや、魔法を連発して魔力を消費してしまった分、最初より不利な状況になっている。


「お待たせしたね。再開しようか」


 レックスの魔力が増大している。


 普通では考えられない量だ。


 ……回復するついでに秘薬を使ったな。


 貴重なアイテムをポンポンと気軽に使いやがって。


 チートじゃないか。


「面倒だから、二人まとめて、相手してあげるよ」


 能力が向上して強気になっているみたいだ。


 セラビミアも含めて戦おうとしている。


「私に勝てると思っているの?」


「女好きの変態に負けるはずがない」


「いうねぇ」


 煽りにギリギリ耐えたセラビミアは、こめかみがピクピクと動いていた。


 貴族の間ではそんな噂が出回っていたのか。


 自由奔放に振る舞うセラビミアだから、周囲の評判はかなり低かったんだろう。


「生意気な根性をたたき直してあげる」


 セラビミアが飛び出し、剣を振り下ろすが、レックスは剣で受け止めた。


 顔を近づける。


「遅いな。お前の実力は、この程度なのか?」


「私が本気を出せれば、君なんてすぐに殺せるんだけど」


「だったら今すぐ本気を出せよ」


「そんなことはしない」


 セラビミアは俺を見た。


「だって、私には頼もしい主人公がいるから」


 奇襲をかけようと思ってレックスの背後に回っていたのだが、セラビミアが目で合図を送ってしまったため、その視線で気づかれてしまった。


 余計なことをしやがって。


 セラビミアを吹き飛ばし、レックスは半回転してヴァンパイア・ソードを受け止める。


 俺が上から押しつぶそうとしても、力負けして動かない。


 むしろ、押し返されてしまった。


 ヴァンパイア・ソードを持ったまま、腕が上がってしまう。


「じゃぁな。ジラール男爵」


 レックスの剣が俺の喉に迫る。


 体は動かせないので、魔法を使うしかない。


『シャドウ・ウォーク』


 影に沈んでセラビミアの隣に浮かび上がる。


 もう魔力は枯渇気味だ。


 少しフラフラする。


「危なかったね」


「お前が原因だがな」


 もっと文句を言ってやりたかったのだが、レックスが雷属性付きの竜巻を放ってきた。


 魔力を封印されたセラビミアでは防げない。


 俺たちは横に飛んで回避するが、その行動は読まれていた。


「死ねぇ!!」


 悪役っぽい言葉を叫びながら、レックスが俺に向けて剣を振り下ろしてきた。


 しゃがんだ状態なので動けず、力の差が大きいので受け止められない。


 迫り来る刀身をじっくりと見ながら、当たる直前、手の甲で叩き、はじく。


 無事に切り抜けたという感覚はない。


 むしろ、そういう行動を取らされたというべきだろう。


 レックスのつま先が俺の胸に当たり、防具が砕け、吹き飛ばされた。


「ガハッ」


 背中から地面に衝突し、肺から空気が全て出てしまう。


 呼吸ができない。


 追撃が来るかもしれないと立ち上がろうとするが、体がいうことをきかなかった。


「主人公を助けるのは、ヒロインの仕事だね!」


 俺を見殺しにすると思っていたセラビミアが、レックスに斬りかかった。


 秘薬を使っているレックスと互角に戦えている。


 不穏な言葉を放っていたが、頼もしい女だな。


「だが、決め手がない」


 身体能力が同等でも、レックスには魔法がある。


 今の状況は長く続かないだろう。


 一つしかないうえに、セラビミア用に使いたかったんだが……俺も秘薬を使うしかない。


 小瓶を取り出すと親指で蓋を外し、一気に飲む。


 効果はすぐに発揮された。


 枯渇しかけていた魔力が回復するどころか、あふれ出すような感覚がある。


 試しに身体能力強化をしてみたのだが、普段よりも効きが良い。


 近くに転がっていた瓦礫を握りつぶしてみる。


 力をほとんど入れなかったのに、バラバラと崩れていった。


「これが秘薬の力か」


 レックスが急激に強くなったのも納得である。


 ジャイアントキリングには必須のアイテムだな。


 ヴァンパイア・ソードを持って立ち上がると、セラビミアを見る。


 浅い傷を負っていて、全身から血を流していた。


 防具や服も破壊されていて顔には汗が浮かんでいる。


「これで世代交代ができる」


 腕を引いてセラビミアを突き刺そうとしていた。


「それは、俺が許さない」


 あえて声を出した効果もあって、レックスが俺を見る。


 攻撃が止まった。


 瞬きするほどの時間で近づくと、地面を削りながら剣を振り上げる。


 当然ではあるが反応されてしまい、お互いの剣がぶつかり合った。





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