第230話 魔族に味方する人間よ、滅びよ!

「不気味な剣だと思っていが、人の血を吸うとはな……」


「呪いの武器なんて、そんなもんだろ」


 貧血によって青白くなったレックスは、ヴァンパイア・ソードを見つめている。


 魔族に分類されるヴァンパイアと似たような機能ということもあって、嫌悪感を覚えたような顔をしていた。


「……誰からもらった?」


 恐らくだが、ヴァンパイアからもらったと勘違いしてそうだ。


 祖先の墓から拾ったなんていっても信じないだろうし、本当のことを伝える義理はない。


「教えるわけないだろ」


「ちッ。貴族とあろう者が、魔族に魅入られやがって」


 魔族と取引することを非難するような言葉だ。


 レックスの信念に反するのは分かる。


 だが、アラクネを含め、魔族と呼ばれている種族と取引することは、王国法に反していない。


 一部の貴族が忌み嫌っているだけで、何も問題はないのだ。


「魔族に与する者は全て殺す」


 レックスから強い殺意を感じる。


 どうしてここまで嫌えるのか。


 一つだけ心当たりがあった。


「お前、人間至上主義の信者か」


「そうだが、お前には関係ないだろ」


 勇者という特別な存在を生み出せる人間は、他種族よりも偉い。


 人間から姿形、生態系が大きく異なる種族は隷属するべき。


 なんて傲慢な考えを持つ集団、それが人間至上主義教団である。


 ジラール領にアラクネの集落があると知ったら、絶対にちょっかいをかけてくる。


 やはり、この場で殺さなければ。


「もちろん、関係ないが、殺さなければいけない理由が増えた」


「それは俺もお同じだ」


 剣を構えたレックスの魔力が高まっていく。


 隙が見当たらず、下手に動けない。


 こいつ、強くなってないか?


 宿敵の前でピンチになったら強くなるなんて、主人公補正のようじゃないか。


 俺の方によこせよ!


「特殊な能力があるから勇者になったと思っているようだが、実は違う。真の力というのを見せてやるよ」


 目の前にいたレックスの姿が消えた。


 いや、跳躍したようだ。


 見上げると剣を振り上げているレックスがいる。


 刀身には竜巻のような渦があって、ヤバそうな攻撃をしてくると察した。


「細切れになれ!」


 剣を振り下ろすと、刀身にあった竜巻が伸び、俺に向かって進む。


『シャドウ・ウォーク』


 自分の影に沈み、レックスの影に移動した。


 これで回避できたと思ったのだが、竜巻はぐにゃりと曲がって追随してくる。


 ホーミング機能付きのようだ。


「勇者から逃げられると思うなよッ!!」


 うっさい! そんなこと知っている!


 当たる直前で横に飛び、竜巻を回避したが、体がピリッとする感覚があった。


 どうやら雷系の属性も付与されているようだ。


 筋肉が痙攣して力が入りにくい。


 これは少し困ったな。


「魔族に味方する人間よ、滅びよ!」


 地上に着地したレックスが叫んだ。


 差別主義者でしかないくせに、正義の味方っぽいセリフを吐きやがって。


 俺はレックスを倒し、アラクネを使って金を稼ぐんだ!


 背後から迫ってきた竜巻を転がりながら避け、ついでに石を拾う。


 追撃が来る前に身体能力を強化して投げつけた。


 反射的に体を動かしてレックスは回避してしまい、竜巻の軌道が狂う。


『シャドウ・ウォーク』


 近くの建物の影に移動して身を潜めた。


「どこだ!! 逃げるなんて卑怯だぞ!」


 レックスは、竜巻を周囲の建物にぶつけて暴れている。


 俺を完全に見失っているようだ。


「少し休むか」


 様子を見ながら魔力を回復させつつ、呼吸を整え、水を飲む。


 真っ正面から戦うのはバカがすることだ。


 獲物を狩るのでれば、疲れたところを狙えば良い。


 セラビミアの様子が気になったので戦いを見ると、すでに勝利していた。


 綺麗に首を切断したらしく、二つの頭が地面に転がっている。


 ゲーム内に登場したので強かったはずなのだが、魔力を封印した勇者にすら勝てないとは。


「くそ! ベルタ、ヴァーリア、手伝え!」


 竜巻を放ちながら、レックスは彼女たちの死体を見た。


 ようやく仲間が死んだことに気づいたようで、驚愕した顔をしている。


 今がチャンスだ。


『シャドウ・ウォーク』


 レックスの影に浮かぶ。


 足の怪我、そして予想外の展開に数秒ほど反応が遅れてくれた。


 その隙を狙って、ヴァンパイア・ソードを背中から突き刺す。


「ガフッ」


 レックスの口から大量の血が出た。


 俺はやられたらやり返すタイプなので、狙い通りの反応である。


 後は血を吸えば……ッ!!


「ガハッ」


 なんと、レックスの体から暴風が発生して吹き飛ばされてしまった。


 吸血前にヴァンパイア・ソードが抜けてしまい、距離は離れてしまう。


 竜巻には雷属性が付与されていたので、体が半分麻痺しているようだ。


 立ち上がることはできたが、走るのは難しそうである。


「ジラーール男爵ッ!」


 血を吐き、顔色がさらに悪くなったレックスは、呪いを込めたような声で名を呼んだ。


 ジャックの体に乗り移り、横領や強盗などの罪を犯した犯罪者を処分したときから、恨まれることになれている。


 この程度でビビるはずがないだろ。


 ちんけな犯罪者と同じように、新勇者すら俺が処分してやるよ。

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