第189話 派手にヤレよ

「決闘に負けた屈辱は晴らさなければならんッ!」


 領地の戻ってから執務室に騎士団長を呼びつけ、怒鳴り散らしている。


 こいつらが弱いから、この私が貴族もどきに負けてしまい恥をかいてしまったのだ。


 絶対に許せない。


「仰るとおりですが、決闘の結果は守らなければなりません」


「そんな正論を聞きたくて呼んだわけではないぞ!」


 誓約書は王家も保管しているため、この俺が約束を破れば即座に制裁が下る。


 決闘の制度を守るために必要なことであるため、公爵家だからといって見逃してくれるはずはない。


 貴族もどきを叩きのめしたいのに動けないという事実が、苛立ちを加速させる。


「どんな手を使ってでもジラールのガキを殺せ!」


「我々はジラール領に入れば、また汚名が増えてしまいます。これ以上は致命傷になる可能性もあるので控えて下さい。また今はセラビミア様の調査に人を割いており、人員が――」


「黙れ! 言い訳は聞きたくない! リーム家に関係のないヤツを使えばいいだろッ!!」


 騎士団長のプラットは頭が悪くて困るな。


 人を殺す方法なんて手段を選ばなければ色々とある。


 そのぐらい俺が言わなくても思いつけよ。


「暗殺者を使え、と言いたいのでしょうか?」


「さぁな。自分で考えて行動しろ」


 暗殺者が任務に失敗して依頼人を教えてしまった場合を考えて、明確な指示は出さないことにしている。


 全ての責任をプラットになすりつけるため、勝手に動いてもらおう。


「かしこまりました」


 文句言うことなく部屋を出て行った。


 プラットも失敗したときのことを考えて、直接の依頼人は騎士の従者辺りにさせるだろう。


 暗殺者から俺の指示だという事実にたどり着くのは不可能だろうよ。


「さて、今日はどんな女と遊ぶかな」


 俺のお気に入りは十人ほどいて定期的に入れ替えている。


 理由は飽きたからではなく、妊娠したからだ。


 何故か俺は子供を作りやすい体質らしく、どんな女も数日間、夜を過ごすだけで子供ができてしまう。


 妊婦も楽しめるのだが、遊びはそこまでである。


 貴族として跡継ぎは慎重に選ばなければならないので、子供が生まれると母子を開拓地に捨てて殺すか、もしくは騎士たちに遊ばせてから地下牢で殺すことにしている。


 適当な子供を養子にして死ぬまで女と遊び続けていれば良いと思っていたが、セラビミアを見たときに考えが変わった。


 あの女を孕ませて俺の子供を産ませたい。


 今までに感じたことのない、本能とは別の何かが俺を動かしたのだ。


 偶然見つけた勇者に近い実力を持つ男に出会い、ようやく手に入れるチャンスを作ったのに……ジラールのガキが、邪魔をしやがった!


 暗殺するだけでは足りない。


 領地を徹底的に破壊してやろう。


「旦那様。緊急の要件が」


 これから楽しみの時間だというのに、執事長が邪魔をしてきた。


 俺の前に来ると手紙をよこしてきた。


 陛下の紋章があるので重要な内容が書かれていることだろう。


「よこせ」


 奪い取ってから封蝋を割ると、手紙を取り出す。


 セラビミアが国外に逃げ出そうとしている責任を追及するような内容だった。


 あの貴族もどきが告げ口でもしたのか?


 クソがッ!!


 この俺を馬鹿にしやがって。


 アイツが大事にしているものを全て破壊しなければ気が済まん!!


「王家からはなんと?」


「セラビミアが国外に逃げ出した責任を取れと書いてあった」


「それはッ!?」


「案ずるな。まだ国外に逃げたわけではない」


 他国に行ってしまったのであれば問題だが、まだそういった情報は入ってきていない。


 金さえかければ挽回は可能だ。


「セラビミアを指名手配する。居場所を見つけたヤツには金貨1万枚、捕まえたら10万まで出すぞ。王家からの許可が下りたらすぐに動け!」


 大々的に告知してしまえば勇者が逃げ出したと他国に知られてしまうが、本当に逃げられてしまうよりかはマシである。


 しばらく国内は荒れてしまうだろうが、そこは新しい勇者に頑張ってもらおう。


 実力はあるので問題にはならんはずだ。


「かしこまりました」


「まて。まだ話はある」


 急いで部屋を出て行こうとしたので呼び止めた。


「傭兵を雇ってジラール領を荒らしてこい」


 金を渡した事実は残るが、証拠さえなければ追求はかわせる。


 最悪、目の前の執事長がかってにやったことにすればいいしな。


「予算はどのぐらいでしょうか?」


「任せる。徹底的に荒らせるだけの人数を揃えれば、手段は問わん」


 散発的に領地を荒らすのも良いし、全力で村を襲って壊滅させるのも良いだろう。


 手段はいくつもあるが、ジラール領が破滅する結果だけは変わらない。


 この俺を馬鹿にしたことを領民どもと一緒に、死後の世界で反省でもするんだな。


「だが、派手にヤレよ」


「満足できるような結果にいたします」


 長年俺に仕えていることもあって、好みはわかっているようだ。


 悪そうな笑顔をしながら言い切った。


「わかっているならいい。俺は女のところに行ってくるから、後は任せた」


 ようやくベッドの上で遊べる。


 ストレスが溜まった分だけ吐き出さなければならんな。


 久々に今日は、何回出せるか記録に挑戦してやるか!


 泣いて叫んでも俺は止まらんぞッ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る