第173話 ジラール男爵のご判断に従います

 リーム公爵が動き出す前に全てを終わらせるため、急いで馬車に乗るとジラール男爵の屋敷に着いた。


 出迎えてくれたのは執事のケヴィン。


 彼はジラール男爵を国王にしたいと考えていて、その思想から反するような動きをすると裏切る設定にしていた。


 例えば家を衰退させる、世継ぎを作らない、貴族の責任を放棄して逃げるとか。


 他にも、領地を拡大させて革命のコースを選ばなければ確実に裏切るので、順調に進めてても油断はできない。


 ジャックの子供ができた後に、ザクッと刺されて終わるエンドは何個も作ったからね。


 もちろん、ヒロインが寝取られるルートもあるよ。


 ルミエがケヴィンの子供を作るエンドはネットで燃えたなぁ。


 懐かしい。


「ジラール男爵は、何時戻られるか分かりませんよ?」


 せっかく会いに来たというのに領地の視察で不在らしい。


 言葉には出さないが、ケヴィンからは帰れといった圧力を感じる。


 事前に連絡しなかったから腹を立ててるのかな。


「勇者である私が気にしないと言っているんだ。さっさと部屋に案内してくれないかな」


 でも私にとっては、都合の良い展開だ。


 ケヴィンを押しのけてジラール男爵の部屋に入る。


 相変わらず貴族にしては質素な内装で、彼が苦労してお金を貯めてきただろうことが伝わってきた。


「客室は二階かな?」


「……ご案内いたします」


 不満そうな声を出しながら、ケヴィンが歩き出したので後ろを付いていく。


 二階に上がると、ゲームで設定通り客室があった。


 ドアを開くと二人とも部屋に入る。


「ジラール男爵が戻りましたら、お知らせいたします。それまでの間は、ここでお待ちください」


 私の許可なくケヴィンが部屋を出ようとしたので、風の魔法を使って開きっぱなしのドアを閉めた。


「セラビミア様?」


 警戒しながらも丁寧な姿勢、言葉は崩さない。


 私が何をするか分からないので警戒しているようだ。


「今はケヴィンと話したい」


 笑みを浮かべながら室内に置かれたベッドに腰掛けると、足を組む。


 やや前傾姿勢になった。


「私、ジラール男爵と婚約したいんだけど、長く仕えている君はどう思う?」


「ジラール男爵のご判断に従います」


 嘘つき。


 喉からでかけた言葉を飲み込む。


 今は友好的な関係を構築するために我慢しなきゃ。


「でも、君にだって、こうなって欲しいという想いはあるんじゃないかな?」


「いえ、私には――」


「勇者と結婚したら、上位貴族の仲間入りができるんだよ? ジラール家にとって大きなチャンスだと思わない?」


 二度と来ないであろう王都デビューのきっかけにはなる。


 私が死んで勇者の称号がなくなれば、男爵としての価値しかなくなるけど、セラビミアの名前が使える間に成果を上げれば、一つ上の子爵ぐらいにはなれるだろう。


 そんな計算をケヴィンの脳内ではしているはず。


「おっしゃる通りですね」


「でしょー。だからさ、私に味方してくれない?」


 ジラール王国を作りたいと願っているケヴィンには魅力的な提案だ。


 それが罠だと分かっていても、拒否できないほどに。


「私が判断することではありません」


 従順な執事を演じるためなのか、言質はとれそうにない。


 仕方がないので、攻め方を変えようか。


「私とジラール男爵の邪魔をしないだけでも助かるんだ。それだったら良いでしょ?」


「……もとより、執事が意見するようなことではありません」


「ありがとー!」


 後ろ向きな発言のようにも聞こえるけど、きっと裏で私をサポートしてくれるはず。


 それほどケヴィンにとって、爵位を上げることは魅力的に映る。


 もしかしたら、私の力を使って国を乗っ取るなんてことまで考えているかもね。

 

「でさ、ジラール男爵は戻ってくるのかな?」


 重い話が終わったので、軽い口調で言ってみた。


「数日はかかるでしょう」


 思わずニヤけてしまった。


 先にリーム公爵が屋敷に来たらジラール男爵は逃げ切れない。


 言い訳は不可能。


 正面から相対しないといけない状況に追い込まれるからね。


 対抗手段を考える余裕すらないだろうから、必ず私を頼ってくれるので、一緒に遺跡を探索する代わりに助けてあげよう。


 少し遠回りしちゃったけど、ようやく私の思い描く世界が実現できそうだ。


「やはり領地に帰られますか?」


「ううん。私は何日でも待つよ」


「かしこまりました。それでは、身の回りの世話をするメイドを連れてまいります」


 頭を下げてからケヴィンが部屋から退出した。


 暇になったので立ち上がると、窓から外を見る。


 中庭では小さい女の子が洗濯物を干している姿があった。


 ぱっと見は平和そのもの。


 誰もヴァルツァ王国で唯一の公爵が、怒りの来訪をしてくるとは予想すらできていない。


 ジラール男爵、君が大切にしている領地の危機だよ。


 早く戻っておいで。


◆ ◆ ◆


 アラクネとの交渉を終わらせて第四村に戻ってから、第二、第三村の視察も続けていた。

 

 一緒に連れているアラクネのレーアトルテは馬車で隠していたので、村人に見つかることはなかった。


 男が集まれば交易は順調に進むだろうし、領地は潤う。


 ようやく俺の時代が来たんだという実感が湧いてきたな!






=====

【あとがき】

本作を面白いなと思っていただけたのであれば、Amazon等でレビューをしてもらえると大変励みになります!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る