第161話 未発見の種族
ルートヴィヒたちが休憩している場所に戻った。
周囲の調査は終わっているみたいで全員がいる。
兵たちは俺を見て、続いて後ろにいるドライアドに視線を移す。
驚きの表情をするものもいれば、立ち上がって剣を抜くものまで、反応は様々だ。
特に前に暴走した姿を見たことがあるアデーレとユリアンヌは、警戒心を露わにしていた。
「ドライアドは敵ではない。俺の話を聞け」
ドライアドの背中に手をあてて、俺の前に移動させる。
「彼女はこの森を守っている木の精霊ドライアドだ。多少の開拓なら邪魔はしないと約束してもらった。だが、それだけじゃない、さらに有益な情報をもらったぞ」
ニヤリと笑ってみせると、アデーレとユリアンヌはキラキラした目で俺を見つめ、グイントは疑わしそうな顔をしていた。
失礼なヤツめ。
グイントには、ドレスを着させてからヒルデに献上してやる。
あの女なら喜ぶ……いや、ダメだ。
愛妻家のヨン卿がキレるな。
別の罰でも用意しておこう。
「なんとこの奥にアラクネがいるらしい。彼女らと交易ができるようになれば、領地は潤うぞ!」
パチパチパチと、何も分かってなさそうなアデーレとユリアンヌが拍手をしてくれた。
残りは話しについて行けないようで、反応はない。
「ジャック様」
小さく手を上げて質問をしたのはグイントだ。
「何だ?」
「アラクネとはどのような種族なのでしょうか?」
「聞いたことないのか?」
「はい。未発見の種族……でいいんですよね」
ゲームの知識を持っていない、グイントやルートヴィヒたちは、名前を聞いただけでは分からんか。
田舎男爵領の平民ということもあって、知識を仕入れる機会はなかったはず。
当然の反応か。
むしろ何も分からずに拍手している、アデーレとユリアンヌの方が問題かもしれんな。
「森に引きこもっている種族で、未発見ではないが珍しい種族だな」
詳しい生態までは分からないが、ゲーム設定上ではそうなっていたはず。
エルフよりさらに珍しい種族で王都であっても見かけることはない。
「下半身が蜘蛛で上半身が女性の姿をした、蜘蛛人族とも呼ばれている」
「蜘蛛と人間が合体……? どんな姿なんだろう?」
兵の誰かが疑問の声を上げると、他のヤツらも追随していく。
見たことがない存在をイメージしろと言ってもできないだろう。
前提の知識が圧倒的に足りないからな。
見ればすぐに分かることなので、説明するだけ時間の無駄になる。
「ドライアドが案内してくれるから、会いに行くぞ」
くるりと反転してドライアドと一緒に歩き出す。
単純なアデーレとユリアンヌはすぐに行動して、俺の隣にきた。
ワンテンポ遅れてグイント、ルートヴィヒや残りの兵が後に続く。
森の支配者であるドライアドが先頭にいるので、危険な動物や魔物は恐れて近づいてこない。
道に迷う心配は無いのだが、舗装されていない場所を通るので、邪魔な草や葉を斬り落として進む。
結構な体力を使うな。
「私に任せてください」
ヒュドラの双剣を抜いたアデーレが俺の前に移動すると、代わりに邪魔な草を切ってくれた。
短槍だと草を刈るのに不向きなので、ユリアンヌは活躍できず、悔しそうな目をしている。
「適材適所だ。気にすんな」
肩をポンと軽く叩いて励ましてやった。
「旦那様ぁ……」
狙い通りに機嫌が良くなったので、後は放置だ。
手を離してドライアドの背を見ながら奥に進む。
時間にして三時間ほどか。
そろそろもう一度、休憩をしようと思っていたら開けた場所に着いた。
目の前には木で作られた三メートルほどの外壁があり、近くに閉じた門がある。
物見櫓のような建物が手前と奥に二つ見えた。
魔力で視力を強化して手前の物見櫓を覗いてみると、女性が一人、こちらを見ている。
俺たちに気づいて弓を構えている状態だ。
「このままだと攻撃されそうだな。どうすればいい?」
「任せて」
俺の疑問に短く答えたドライアドは、ゆっくりと進んで外壁の前に立つ。
「友人を連れてきた」
「待ってくれ! 族長を呼んでくる!」
ドライアドとは顔見知りらしく、物見櫓にいた女性は飛び降りると姿が見えなくなった。
ゲームで登場していたキャラクターと同じように、下半身が蜘蛛だったので、ここがアラクネの集落だというのは間違いなさそうだ。
「本当に下半身が蜘蛛なんですね……」
初めて見るアラクネを見て、グイントは衝撃を受けたようだ。
馬のように人が座れそうなほど蜘蛛の部分が大きかったので、近づいて剣で斬るというのは難しそうである。
「族長は白い蜘蛛だ」
ドライアドが重要な情報を教えてくれた。
白いアラクネか……通常は黒なので特殊な個体だな。
族長という立場でもあるし、アデーレのようにネームドキャラである可能性も高い。
ゲームでは見覚えがないので。続編の方で登場したのか?
詳細は不明であるが一般兵より強いと思われるため、交易だけでなく、仲間に引き込みたいな。
「しばらく待つか」
ルートヴィヒと兵には周囲の警戒を命令し、グイント、アデーレ、ユリアンヌは俺の護衛だ。
もし争うことになったとしても三人がいれば、逃げる時間ぐらいは稼げるだろう。
腕を組みながら黙って待っていると、外壁の門が開いた。
見た目は二十代だろうか、白く長い光沢のある髪と赤い目をしたアラクネが一人でやってくる。
下半身の蜘蛛の部分も白く美しい。
武器は持っていないが、油断はできない。
足の先端は槍の穂先のように鋭く、鎧なんて簡単に貫けそうだ。
「お前がドライアドの連れてきた人間どもか」
敵意は感じないが、体から発する魔力には圧がある。
威嚇されているのかもしれん。
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