第144話 何を遊んでいる。奥に行くぞ
俺の屋敷がある町には、ジラール領で唯一、犯罪者を捕らえておく牢獄がある。
大方のイメージ通り、地下にあって衛生環境は悪い。
常に湿気があってカビが生えており、石造りなので座ると冷たい。
一週間も滞在したら体調を崩すと言われているほどだ。
酔っ払いを反省させるためにぶち込むこともあれば、処刑予定の殺人犯をぶち込むこともあるが、貴族である俺が来るような場所ではない。
しかし今回は、事情があって俺が足を運んでいた。
◆◆◆
牢獄を管理している兵からランタンを借りると、アデーレとメイド服を着たグイントを引き連れて地下に降りていく。
コツン、コツンと、石を叩く音が反響していて、牢獄に来たなといった実感が湧いてきた。
『悪徳貴族の生存戦略』では、戦闘で捕まえた捕虜を入れる場所として登場し、拷問や陵辱といったコマンドを駆使して、敵の情報を手に入れることをしたな。
R15 レベルの描写しかないので具体的な描写は省かれていたのだが、その分、妄想する余地があった。
思春期にプレイしていたら性癖が歪んでしまっただろうな、と感じるようなヒドイ結末もあり、思い出しながら歩いている。
最下層に到着すると、目の前に細い通路が出現した。
左右には一定間隔で鉄格子が並んでいる。
怖い物見たさで一番手前の牢獄にランタンの光を照らす。
火傷で顔がグチャグチャになった男が倒れていた。
「ひぃっ」
背後にいたグイントが短い悲鳴をあげて、俺にすがりついてきた。
アデーレが無言で引き離すと、バランスを崩してすっころんでしまい、スカートがめくれる。
黒いパンツが見えた。
こんな所でも不幸エロイベントが出るのかよ。
一人で放り込んだら、男と分かってても囚人に襲われそうだな。
数時間後には、白い液体まみれになっていただろう。
「何を遊んでいる。奥に行くぞ」
「え、あ、はいっ」
慌てて立ち上がったグイントがまた転倒して、尻を丸出しにしたのだが、もう突っ込まない。
アデーレだけを連れて先に進む。
手前はケガで動けないヤツらが入れられているようで、奥に進むと体が動かせる男や女が牢獄に入っているようだ。
男女は分けずにぶち込まれているようだが、尿や便の臭いがきつすぎて一緒にいても性欲は湧かないらしい。
お盛んなヤツはいなさそうだ。
「コレを巻いておけ」
獣人であるアデーレは鼻が良いので、臭いで気絶してしまうかもしれん。
防臭効果がある薬草を練り込んだ糸で作った、大きめの布を取り出す。
遠慮されると面倒だったので、この俺がアデーレの後ろに回ると、顔の半分を覆うようにして布を結んだ。
「ありがとうございます」
やってもらったのが恥ずかしかったようで、照れながら礼を言った。
「気にするな。それより護衛の仕事頼んだぞ」
いつも通り頭を撫でていると、グイントが追いついたので再び歩き出す。
俺の町には意外……でもないか。
犯罪者が多いらしく、牢獄の数は五十を超えている。
歩いて数分ほどしただろうか、ようやく目的の場所に着いたな。
牢獄には番号札がついていて、六十一と刻まれていた。
ランタンの光を近づける。
足に鉄球を付けられた女性――裏切りの女、メディアがいた。
戦後処理の時に知ったのだが、どうやらメディアはメイド長という立場だったらしく、非常に優秀だったらしい。
デュラーク男爵が頼りにしていた一人と聞いている。
そんな彼女は、恋人の墓参りをした後、扱いに悩んで牢獄にぶち込んでおいたのだ。
たった数日会っていなかっただけなのだが、全身が薄汚れている。
眩しいのか、目を細めてこちらを見ていた。
「ジラール男爵……?」
「そうだ。お前の処分を決めたので、直接、言い渡しに来た」
「え?」
戸惑うのはわかる。
普通、貴族である俺が牢獄にまで来てする話じゃないからな。
「では言い渡そう。お前に二つの選択肢を用意してやった。好きな方を選べ」
自分の運命を左右する話であるため、メディアはつばを飲み込むと黙った。
貴族である俺の言葉に、余計な疑問を挟まず、従順な姿勢を見せている。
ちゃんと教育されていたようだな。
「一つ目は、貴族殺しとして処刑される道だ。大罪なので楽には死ねんぞ。親族も含めた全員が、四肢切断の刑になる」
生きたまま四肢を、のこぎりのような剣で斬り裂かれる処刑方法だ。
大の男でも悲鳴を上げて、失禁するほど痛いらしい。
ゲーム内で四肢切断の刑が実行される際、男性声優が名演技をしてくれたおかげで、しばらくの間トラウマになったのは、ここだけの秘密だ。
「……一つ目が処刑と言うことは、二つ目は違うんですよね?」
「もちろんだ。お前が俺と取引をするのであれば、ここから生きて出してやる」
裏切ったことのある女と、取引するのはリスキーである。
そのぐらい分かっている。
解放後に監視を付けたとしても不安は残るが、有効利用できるのも事実なので、悩んだ末に選ばせることにしたのだ。
「あの人が死んだのに生き残っても……」
「死にたいのであれば止めんが、お前のわがままに家族も付き合わせるつもりか?」
「……ッ!」
痛いところを突かれたようで、俺のことを睨んできた。
その態度が気にいらなかったのか、アデーレが双剣の柄に手を乗せたので、無言で止める。
「まあ、落ち着けよ。どうするかは、俺の話を聞いてから決めろ」
「分かりました。それで、取引とは何でしょうか?」
「デュラーク領に新しい領主が来る。そいつを監視して、動きがあれば俺に報告しろ」
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