第143話 私と、古代遺跡を探索する気はない?

「ま、他の貴族の話はどうでもいいか。金がもらえるなら文句はない」


「おーけー。国王陛下には、金で解決できると伝えておくね」


 デュラーク男爵との問題は、これで解決だ。


 先ずは戦死した兵に金を払うのと同時に兵を募集しよう。


 働いても、そして死んでも金がもらえると分かれば、前回より応募は増えるはず。


 その中から郷土愛が強く、従順なヤツを選んでいこう。


『悪徳貴族の生存戦略』では斥候、戦士、弓兵、諜報員、暗殺者といった職業があったので、それにあわせて部隊を作るのもありだな。


 特に近隣の領地にはスパイを送り込みたい。


 今後も貴族同士の戦いが発生するだろうから、色んな情報は握っておくべきなのである。


「ねぇ。一つ、質問良いかな?」


「聞くだけ聞いてやる」


「私と、古代遺跡を探索する気はない?」


 今回はセラビミアに助けてもらったという自覚はあるが、お互いに利益のある取引だったので、借りとは思っていない。


 相手もそうだ。


 だから、答えは変わらない。


「断る」


「そっかぁ。残念だけど、今は引き下がるよ」


 即答したのが良かったのだろう、この場は引いてくれた。


「でもね、諦めないから」


 目が怪しく光ったように感じた。


 セラビミアは王都に住んでいて物理的な距離があるうえ、貴族の監視に忙しいから、俺に構っている時間なんてないはず。


 二度と関わらない可能性だってあるのに……俺の直感は危ないと囁いている。


「実はね。王家にわがままを言って、お願いを二つ叶えてもらったんだよ」


 頬が引きつるの無理やり我慢した。


 絶対に、良くない話である。


 聞きたくはないが、セラビミアの口は止まらない。


「一つ目はね。勇者の仕事をしばらくお休みすることだね。数年は自由にさせてもらう予定だよ」


 貴族の監視と処罰が、勇者の仕事だ。


 代わりはいない。


 セラビミアが休むのであれば、貴族どもは好きに動き出すだろう。


 もちろん、王家に反逆するようなバカはいないだろうが、デュラーク男爵がやったような嫌がらせや小競り合いは増えそうだ。


「よく、王家が許可したな」


「働き過ぎて、貴族からの怨みをたっぷりもらっちゃったからね。しばらく休めって、王家に言われてたんだよ」


「ああ、そういうことか」


 要するに、鞭ばかり与えすぎたということだ。


 厳しく取り締まったことで貴族どものストレスが高まって、危険な状況になっていたのだろう。


 怒りの矛先は、王家……ではないな。


 スケープゴートとして勇者がいるんだから、責任を全てなすりつけているはずだ。


 恐らく貴族には「王家に黙って好き勝手動いていたから、勇者に罰を与えた」なんて、説明しているかもしれん。


「王家は喜んで、お前の提案を受け入れたんだろうな」


「うん。気を使うようなことを言ってたけど、本音ではうるさい勇者がいなくなるって喜んでいたと思うよ」


 なんと王家にすら煙たがられているのか。


 勇者という存在は国内で求められていないのかもしれない。


「だったら、勇者なんてアホみたいな制度を無くせばいいのに」


「他国がいなければ、すぐにそうしているんじゃないかな。特にグラディア大王国がなければ」


 ヴァルツァ王国の三倍以上の規模を持つ大国が近くにあり、侵略されないようにするため、勇者の力はなくては困ると言いたいようだ。


 セラビミアの能力はずば抜けて高いし、大国の王の暗殺だって不可能ではない。


 国防には必要な人材であるから、勇者という存在自体はなくしたくないのだろう。


「事情は分かった。残りのお願いは何にしたんだ?」


 勇者は黙って存在していろという、王家のお気持ちはよく分かった。


 だが、セラビミアは素直に従う女ではない。


 短い付き合いであるが、周囲の思惑を利用して目的を達成しようとするぐらいの強かさは持っていると、知っている。


「領主になりたいです。土地をくださいって言ったんだよ」


「おまッ! 場所は、もしかして……」


「うん。旧デュラーク領だよ」


 そうきたかッ!


 俺が領地拡大を断ると分かっていて、お隣に住むと決めたんだな!


 場所が近いので、相手の行動なんて筒抜けだし、デュラーク男爵のように裏工作もしやすい。


 しかも私兵を持つことも許されるので、勇者の欠点である個人という部分が解消される。


 人海戦術が取れるようになるのだ。


 ジラール領にスパイを送り込んで、くまなく監視することだって造作はない。


 俺が他の貴族にやろうとしたことなので、セラビミアだって当然思いついているはずだし、むしろすでにスパイがいると考えた方が妥当だ。


「これからお隣同士だ。仲良くしようね」


「……そうだな」


 遺跡探索のお誘いは面倒という点を考慮しても、セラビミアと仲良くするメリットはでかい。


 俺に手を出そうとする貴族がいなくなるからだ。


 誰もが、領主ごっこを楽しんでいるセラビミアに目を付けられたくないからな。


 表舞台に出てこないようにと、監視しながらも関係者には手を出さずに放置するはずである。


 領地を開発したい俺にとっては、非常にありがたい。


 先ほどは予想外の言葉に驚いてしまったが、よく考えればセラビミアを利用して、領地を整備するチャンスでもある。


「お前の影響力を存分に使わせてもらうからな」


「私とジラール男爵の仲だ。存分に使うといいよ」


 お互いに握手を交わし、契約は締結された。


 セラビミアは領地の掌握に時間はかかるだろうし、しばらくの間、平和が約束された瞬間である。

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