第94話 命令には素直に従え。できるようになるまで教育してやろう

「知っていることを全て吐いてもらい、その後、我が領地を荒らした犯罪者として投獄する」


 魔物の騒動を起こしたカイルは使い道がありそうなので、しばらくは生かすことにした。


 時間をかけてゆっくりとデュラーク男爵の情報を吐かせる予定である。


 もちろん、使い道がなくなったら事故にあってもらい、処分する予定なのは変わらない。


 貴族にたてついた平民への拷問は許されているし、事故死させても仕方がないで終わるので、権力者にとっては都合のよい世界である。


 裏切り者のカイルは、人生の選択を間違えたと後悔しながら、苦痛の果てに死ね。


「なッ! そんなこと、デュラーク男爵が許しません!」


 敵対貴族の名前を出せば、俺がビビるとでも思っているのか?


 浅はかだな。


 兵を動かすのには金だってかかるし、大義名分が必要だ。


 今でも表向きは、俺のお抱えとなっているセシール商会の代表を奪還するために、ジラール領を攻めるだなんて、王家は絶対に認めない。


 それでも強引に攻めようとするのであれば、勇者セラビミアの鉄槌が下るだろう。


「セシール商会は俺のお抱えで、ジラール領で起こった問題だ。デュラーク男爵は関係ない」


「っ……!」


 反論できないようでカイルは言葉に詰まった。


 ようやく自分が使い捨ての駒だったことを認めたらしい。


「ギリギリまで俺とつながって、情報を得ようとした行動が裏目に出たな」


 手をパンパンと二回叩く。


 ドアが開き、十名ほどの兵が部屋に入ってきた。


 レッサー・アースドラゴンの素材を売った金で揃えた金属製の鎧を装備しており、見た目だけであれば上級貴族の私兵と遜色ない。


 中身は変わってないので張りぼてなのだが、ぱっと見強そうという思える、威圧感というのが大事なのだ。


 戦う前にビビって降伏させることができるからな。


 実際に狙ったとおり、カイルは怯えて文句すら言えない状況である。


「この男は、息子に命令して第三、第四村を壊滅させようとしていた。兵舎の地下牢に入れておけ!」


 兵たちが一気に殺気だった。


 ジラール領出身の兵だからか、故郷を荒らしたカイルが許せないんだろう。


 中には剣の柄に手をあてて抜刀寸前の兵すらいる。


「ルートヴィヒ」


「はッ!」


「こいつには聞きたいことが山のようにある。絶対に殺すなよ」


 兵長としての責任感から俺の命令には従うはず。


 多少荒っぽく扱ったとしても、殺すようなことはさせないだろう。


「かしこまりました!」


 胸に手を当てて返事をしてから、ルートヴィヒは周囲の兵に指示を出してカイルを拘束させる。


 逃げようとして暴れたのだが、兵の一人に顔を殴られたらすぐに大人しくなった。


 攻めるのは得意なのに逆は苦手なようだ。


 カイルは両腕を持たれ、引きずられるようにして部屋から出て行った。


「カイルの聞き取りはケヴィンに任せる。助手として兵を一人付けろ」


 命令を聞いて、ケヴィンは小さく頷いた。


 拷問に一番詳しいのでそつなくこなしてくるだろうが、完全には信用できないので、監視役の兵を参加させることにしたのだ。


 参加した兵が拷問の技術を覚えればケヴィンに頼らなくて済むので、良い働きに期待しているぞ。


「さて、残りはデブ男だな。口の縄をほどけ」


 命令するとケヴィンはデブ男の腹を蹴り上げた。


 え、こいつ何してるんだ?


 突如として発生した暴力に驚いてしまい、注意するのを忘れてしまう。


「余計なことは言わず、 ジャック様に聞かれたことにだけ答えろ。わかったな?」


「んーーーっ!」


 何か言葉を発したデブ男に、ケヴィンはもう一度蹴りを入れた。


「命令には素直に従え。できるようになるまで教育してやろう」


 スムーズに尋問が出来るよう、先に脅したのか。


 目的が分かったので今度は冷静に、目の前で行われている暴力行為を眺める。


 デブ男は何度か抵抗を試みたが、ケヴィンの攻撃が激しくなっていく。


 何度も腹を蹴られ、最後は体を持ち上げられて壁に叩きつけられると、心が折れ得たようだ。


 ついに反抗的な目がなくなった。


 ケヴィンは口につけた縄をほどくと、デブ男は咳き込みながら胃液を吐き出す。


「絨毯が汚れてしまったな。次からは、別のやり方を考えろ」


「承知しました。今度は汚さないよう、綺麗に対処いたします」


 完全に悪役の言葉ではあるが、そもそもジャックが悪役系の主人公だったので、ケヴィンも納得の態度だろう。


 デブ男は良い具合に怯えているようだし、そろそろ会話を始めるか。


「安心しろ、お前は牢獄にはぶち込まない。素直に話すなら拷問だってしない」


 先ほどの教育がきいているようで、余計な口は挟まない。


 静かに俺の言葉を待っている。


「だが、お前は俺の領地を荒らした。許されることではない。分かるよな?」


「はい……」


 倒れているデブ男と目線を合わせるためにしゃがむと、髪の毛を掴んで顔を近づける。


「金貨五万枚をよこせ。それで手打ちにしてやる」


 セシール商会が保有していると思われる資産の九割に相当する金額だ。


 命を助けてやる代わりに、商会を潰せと交換条件を出していることになる。


 さて、こいつは、セシール商会を裏切って命乞いをするのか?


 どんな判断をするのか楽しみである。

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