第69話 魔物の種類は?

 オーガを倒し終わった後の移動は平和だった。


 アデーレ、グイント、ユリアンヌと兵を28名ほど引き連れて、無事に第四村へと到着する。


 状況は俺が思っていた以上に悪いようで、馬車から見える村人たちの表情には、悲壮感が漂っていた。


 半壊している建物もいくつもあり、教会には死体が並べられていて、到着が少しでも遅れていたら全滅していたと思わせる光景だ。


「ここまで、酷い状況だったんですね……」


 馬車に戻ってから一度も顔を合わせてくれないユリアンヌが、悲しそうな表情を浮かべながらつぶやいた。


 魔物と戦ってきたということは、数々の悲劇も目撃してきたはずなのだが、感性は鈍っていないようだ。


 目の前に広がる現場を悲しいと思えるのであれば、人間性は悪くないと判断してもいいだろう。


「冒険者を派遣していたんだが、時間稼ぎぐらいしかできなかったようだな」


 恨むべき相手は勇者セラビミアだ。


 緑の風さえ残っていれば、被害はもっと小さかったはずなのに。


 ゲーム内でも第四村が襲撃される展開はあったが、被害はもっとマシだったので、セラビミアが動いた影響というのは思ったより大きい。


 早く力を付けなければ、ジラール領が破滅するぞ。


「そ、そうだったんですね」


 チラッと俺を見たユリアンヌだったが、頬を赤くしてすぐに別の場所に視線を移した。


 俺に惚れた……という展開なのか?


 一緒に戦っただけで恋に落ちる女なんて、いるはずがないと思うのだが、反応を見るともしかしてと思ってしまう。


 …………まあ、考えてもわからんし、直接聞くにしてもタイミングがある。


 今は俺の命令に従うのであれば問題ないと思っておく。


「俺は村長に会って被害状況を確認してくる。兵長のルートヴィヒは冒険者と合流させて、防衛計画を考えてもらう予定だ。ユリアンヌはどうする?」


 当初の予定に組み込んでなかったので、少し扱いに困っていた。


 先の戦闘で戦えるとはわかっているため、自由にさせても問題はないだろう。


「これからお世話になる土地です。少し、村を見て回りたいと思います。よろしいでしょうか?」


 許可を得ようとする姿勢が、従順さを現していてよい。


 ユリアンに対する俺の評価は高まるばかりだ。


 裏切りそうにないリストの中ではトップ2にはいる。


 ちなみにトップ1はアデーレだ。


「もちろんだ。ユリアンヌに付けている兵は第四村にも詳しい。分からないことがあれば遠慮なく聞くといい」


「お気遣い感謝いたします」


 婚約者同士とは思えない会話が終わると、タイミング良く馬車が止まった。


 御者をしていた兵がドアを開けたので、降りる。


 目の前には村長の住む家があり、血なまぐさい空気が蔓延していた。


「この臭いは、どこからきてるんだ?」


「近くに魔物の死体を集めている場所があるそうです。そこから漂ってきているのかと」


 死体処理も進んでいないか。


 人手が足りないんだろう。


「死体処理にも兵を回せと、ルートヴィヒに伝えておけ」


「かしこまりました」


 兵が返事をしたので、さらに命令を追加する。


「それとだ。ユリアンヌが第四村を見学したいと言っている。アデーレと専属護衛に任命した兵で案内させろ。グイントは自由にさせて良い。わかったな?」


「必ずお伝えいたします」


「頼んだ」


 これで周囲は、勝手に動いてくれるだろう。


 その間に状況を把握せねば。


 ユリアンヌと別れてから村長の家の中に入る。


 玄関から大部屋が見えた。


 奥には腰の曲がった男の老人が椅子に座っており、隣に30歳ぐらいに見える青年がいる。


 彼らの前には小さなテーブルがあって、羊皮紙がいくつか置かれている。


 報告書の類いだろう。


 部屋の隅には、小さい子供を連れた女性が、お湯を沸かしていた。


「ジャック様、このようなところにお越しいただき……」


 歓迎しようとして老人――村長が立ち上がろうとしたので、手を前に出して止める。


「腰が悪いんだろ? そのままでいい」


 相手を気づかった訳ではなく、時間の節約だ。


 動きの遅い老人にあわせるつもりはないからな。


 奥に進んで大部屋に入ると、村長の前に立つ。


「すぐに出るから何もいらん」


 女性が紅茶を持ってこようとしたので、止めた。


 村長を真っ直ぐ見ると口を開く。


「報告は聞いていたが、想像していた以上に危険な状況だな。今どうなっているのか、教えてくれ」


「二日に一回ほどの間隔で、魔物が襲ってきております。冒険者のおかげで村人に被害はありませんが、いつまで持つか……」


「魔物の種類は?」


「ゴブリン、オーク、グリーンウルフが多く、稀にオーガや人食い鳥も出現しております」


 前者の三種類は、数が厄介なだけで強さはさほどでもない。


 だがオーガや人食い鳥は別である。


 オーガの筋肉を突き抜けるような攻撃ができる人は少ない。


 村人では不可能だ。


 冒険者だってCランクぐらいにならないと、まともに戦えない。


 飛べない鳥として有名である人食い鳥は、動きが素早く、くちばしで突き刺す攻撃をしてくる。


 鉄なんて容易に貫くし、外壁だって削り取ってしまう威力があるのだ。


 さらに柔らかい羽毛は刃物が通りにくく、低ランクの冒険者や一般兵の攻撃は無効化されるだろう。


「出現場所は決まっているのか?」


「森から、としかわかっておりません。狩人の一人が中の様子を確認しに行きましたが、戻ってこなかったため詳細は不明でございます」


 魔物発生の発生源は森にあると思っているのか。


 間違いではないのだが、残念なことに明確な原因というのは存在しない。


 ゲーム内で語られていたことではあるが、森の中に生息する魔物の数が増えてしまったから氾濫した。


 ただ、それだけのことなのだからな。

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