第70話 恨んでいるか?
「現状はわかった。よく耐えたな」
本来のジャックであれば、自分たちで何とかしろなどと言って見捨てただろうが、俺は違う。
領民を見捨ててしまえば、反乱や勇者襲来のきっかけになってしまうからな。
税を納めて良かったと思える領主として、振る舞う必要がある。
わがままに振る舞うのは、当面の危機が去ってからでいい。
「後は俺に任せろ。我々が率いていた兵のほとんどを防衛に回し、少数精鋭の部隊を作って森に入り、原因を探る」
ゲームの時は何日間か防衛すればクリアしたし、先ずは防衛を固めるべきなんだろうが、それではグイントの祖父はv見つけられない。
お悩みのシナリオが変わっていないのであれば、第四村で聞き込みをすれば森の中へ入ったと分かるだろう。
そうなったら、グイントは一人でも探しに行くはず。
魔物がウヨウヨと徘徊しているのだから、間違いなく死んでしまう。
優秀な配下になる予定なので失ったら困るので、後でグイントを説得して一緒に行動しなければらん。
「食料は少し持ってきている。兵に配給するよう伝えておくので、全員に行き渡らせろよ。絶対にだ」
報告書を見て必要だと思ったから、わざわざ持ってきたのである。
村長や一部権力者が独り占めをしたら許さない。
そういった圧力をかけた。
「もちろんでございます」
「ならいい。話は以上だ」
村長の家を出ると、ルートヴィヒを探すために村を歩く。
死体処理現場の近くにいるかもしれないと思って、村の端に向かっていると声をかけられた。
「ジラール様ーーー!」
この声はグイントだな。
振り返ると、肩に掛かるほど伸びた髪を上下に揺らしながら、走っている姿が見えた。
探す手間が省けて助かる。
雰囲気からして悪い話ではないだろう。
「何があった?」
目の前で立ち止まり、息を切らしているグイントに質問した。
「聞いて下さい! おじいさまが見つかったんです!」
……は?
森の中にいるんじゃないのか!?
現実になった影響が早くも出始めてしまったのか。
こういった変化は、グイントの祖父だけじゃないだろう。
第四村の防衛も、俺が知っているシナリオとは別物になりそうな予感がした。
「どこにいた?」
「足をケガしてしまったようで、治療用の建物で横になっていました」
死ぬようなケガはしていないだろうが、容体が気になる。
ルートヴィヒを探す前に見ておくか。
「案内してくれ」
「はい!」
元気よく返事したグイントが歩き出した。
祖父の居場所が分かったからか、ずっと笑顔まま。
楽しそうである。
後ろ姿も女に見えるな、なんてくだらないことを考えながら付いていくと、ケガ人が集まっている建物に入っていった。
重い傷を負った冒険者が、床に転がっていた。
うめき声が聞こえ、血の臭いが入り口まで漂っていて、不快感が増していく。
「この上にいます」
グイントは気にせず入っていったが、俺は腕で鼻を隠してから追う。
建物は狭いため、五人ぐらいが横になっているだけで、歩くスペースがないほどだ。
ここにいるヤツらは、四級……いや恐らく三級のポーションを使わなければ、死んでしまうだろう。
そんな高級な物、ジラール家には残っていないので、一階にいる冒険者は息を引き取るしかない。
視線をグイントの方に戻すと、階段をのぼって二階に行ってしまった。
今にも失血死しそうな冒険者を見ながら、俺も上に行く。
包帯を腕や足に巻いたケガ人が、床に座って談笑している姿が目に入った。
一階は重傷者、二階は軽傷者といった感じで分けているのか。
ケガ人は五人、そのうち老人は一人だけで、こいつがグイントの祖父なんだろう。
「おじいちゃん。ジラール様が来てくれたよ!」
グイントが俺を指さしたことで、祖父と視線が合う。
「ケガをしているようだが、大丈夫か?」
第一声をどうするか悩んだが、グイントがいるので気遣う言葉にした。
「これはこれは、領主様。お優しいことで」
含みのあるような言い方が気になるが、文句を言うべきではない。
一線を越えなければ、多少の無礼なら許してやろう。
もちろん、コイツがグイントの祖父だからだ。
「ゴブリンが持っていた、なまくら剣で叩かれただけでなので、すぐに良くなるかと」
「骨も折れてないんだな?」
「多少痛みますが、問題なく動かせますぜ」
そう言ってグイントの祖父は、包帯を巻いている足を軽く持ち上げた。
これなら死ぬ心配はなさそうだと、安堵する。
「で、お前はなんでこんな所にいるんだ?」
グイントと祖父は、俺の屋敷がある町に住んでいる平民だ。
老人の足で第四村にまで移動するのは、大変だったはず。
苦労してまで来たのには理由があるはずだから、聞いてみた。
「亡くなった妻とこの子の両親は、第四村の出身でね。家族が生まれ育った故郷の危険だと聞いて、様子を見に来たんですぜ」
祖父が語った通り、大切な家族であったグイントの両親や祖母は既に他界している。
原因は栄養失調からくる病だ。
食事ができなかった原因は重税にある。
ジラール家さえなければ、もっと長生きしていた。
なんて、思っていても不思議ではない。
「恨んでいるか?」
だから聞いてしまった。
珍しく緊張しているようで、喉が渇く。
もし敵意を向けられたら反乱の芽を潰すために、俺はこの祖父を斬るしかない。
当然、グイントも同じく手にかけるしかなくなるだろう。
「……ワシの怨みは先代であって、領地のために働いていてる貴方ではございませんぜ」
どうやら税制の改善、第三村の救出といった動きが、評価されたみたいだ。
怨みは完全になくなったとは言えないが、今のところは問題なさそうである。
裏切りを警戒して処分する必要はなさそうだ。
贅沢な暮らしをするために領地を復興させているだけなのだが、良い方向に勘違いしているのであれば、指摘する必要はないだろう。
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