第57話 第四村からの報告です

「なぜだ!?」


 ようやく口に出せたのは疑問の言葉だった。


 今までの流れは完璧だったのに!


 拒否された理由が思い浮かばない!


「おじいさまを探しに行きたいんです」


「!!」


 ……クソッ! グイントの悩みイベントが発生したのか!!


 前振りがなかったので、気づくのに遅れてしまった。


 しかし少し、困ったな。


 数ある悩みの中から選ばれたのは、グイントの祖父を探すものだった。


 難易度はやや高めといったところだな。


 最終的には魔物が徘徊している、第四村の森に入らなければいけない。


 魔物が大量に出るので危険度は高く、準備不足で行ったら全滅する可能性があるが、レッサー・アースドラゴンと戦うわけじゃないので、やりようはある。


「グイントの祖父がいなくなったのか……」


「昔から家を出ると数日帰ってこないことも多かったんですが、今回は一か月ほど行方がわからないんです」


「それで探し回っていたと?」


「そうなんです……」


 色んなヤツに聞き込みをして、盗賊団に捕まってしまった。


 そう考えると、助けたときの状況にも一定の納得感はある。


 居場所を知っているから付いてこいとか言われたんだろうな。


「そういった事情があるんなら、探すのを手伝ってやろう」


「え?」


「だがタダじゃないぞ。グイントの祖父が見つかったら俺の部下になってもらう。そういった取引だ。どうする?」


 一人で探すにしても限界はある。


 しかもただの平民なら、他の場所へ移動するにしても金はかかるし、手続きも必要だ。


 だが領主の俺が力を貸すとなれば話は変わる。


 移動は楽になるうえに、人海戦術も使えるのだ。


 今度こそ首を縦に振るだろう。


「なぜ取引をしてまで、僕を誘ってくるんですか?」


「素晴らしい才能を持っているからだ。ここで埋もれてしまうのはもったいない」


「才能、ですか……?」


 自信がないせいか実感がないらしい。


 決断できないでいる。


 もう少し妥協しなければいけないか。


「自分の価値をわかってないようだな。では、部下になる話は忘れていい。無償で探すのを協力してやる。それで、いいな?」


「え、でもそれじゃ」


「いいな?」


 まだグダグダと言いそうだったので、弱めの殺気を乗せて言った。


「は、はい! お願いします!」


 俺がキレそうになったと察したようで、反射的になのか提案を受け入れてくれたようだ。


 これで、グイントを仲間にする作戦を進められる。


 話が終わると足音が近づいてきた。


 振り返ると、ルートヴィヒが兵を連れて戻ってくるところだった。


「ゴブリンは処分できたか?」


「はい。目撃されていた数は倒せたかと」


 下水道に潜むゴブリンを殺すサブクエは終わりだ。


 あとは死体の処分を冒険者どもに任せればいいだろう。


「よくやった。帰るぞ」


 もう臭い場所に用はない。


 グイントを先頭にして歩き、下水道から脱出する。


 残党が残っていないか確認するために兵の一部を残して、屋敷へ戻ることにした。


◇ ◇ ◇


 体を清めてから、下水道に残した死体を処分するため、冒険者ギルドへの依頼書をケヴィンに渡した。


 さらにグイントの祖父を捜索すると言ったら、文句を言いたそうな顔をしていたが無視する。


 ケヴィンの裏切るタイミングが前倒しになったかもしれないが、グイントは必ず手に入れたい人材なので、妥協できないのだ。


 そもそもの話、すべてを無傷で手に入られる状況ではない。


 何かを手に入れるためには、失う覚悟も必要なのである。


 重要なのは、くじけぬ強い心だ。


 絶対に生き残って、贅沢な暮らしをする。


 それさえ見失わなければ、前に進めるだろう。



 調査結果を待ってる間、グイントは屋敷に滞在してもらい、俺は執務室で仕事をしていた。


「第四村からの報告書です」


 ケヴィンが報告書を持ってきたので、手に取る。


 グイントの祖父発見の話だと思ったのだが、第四村にて魔物の被害が拡大していて、手に負えないと報告だった。


 俺が冒険者を雇って派遣したのだが、数が多くて劣勢とも書かれている。


 大きな問題に発展していそうだ。


「兵を送るしかない、か……」


「それで収まるとは思えません。他領に救援を求めては?」


「できるはずないだろ」


 寄親や王家に助力を願うというのは、最終手段だ。


 貴族への貸しほど怖いものはない。


「では、派兵で決定だと?」


「ああ、それでいい。現場を確認したいから俺も行く」


 ついでにグイントの祖父も探してやるか。


 この状況じゃ早めに動いた方がいいだろうしな。


「かしこまりました。ルートヴィヒに準備させます」


「急ぎでな。数日には出たい」


「そのように伝えます。それで……」


 もう話は終わったのかと思ったんだが、どうやら他にもあるらしい。


 デスクの上に一枚の手紙が置かれた。


「婚約者の件です」


 あの男勝りの女性か。


 気が変わって、悪名高いジラール男爵は嫌だと、断りの連絡でも来たか?


 封蝋を破って中身を取り出す。


「……五日後に来るだと?」


 しかも父親だけではなく娘まで連れてくると書いてある!


 第四村に行かなければならないのに、面倒なことになってきたな……。


「どうやら先方は、かなり急いでいるようですね」


 急いでいるってレベルじゃないだろ。


 常識ではあり得ないほどのスピードで進めようとしている。


「そういえば、こいつらってどこに住んでいるんだ?」


 興味がなかったので、地雷でなければいいやと雑に選んでしまったが、本来であれば先に知っておくべきことだった。


「ジラール領の近くにある、デュラーク男爵の村を管理しているとのことです」


 デュラーク男爵と言えば寄親が一緒なので敵対はしていない。


 ケヴィンが選別したので心配はしていなかったが、仮に婚約者になっても問題はなさそうである。


「また今回の話については王家、寄親には連絡済みですので、問題ございません」


 さすがケヴィン、完璧だな。


 俺よりも婚約に向けて張り切っているようである。


「歓迎の準備をして……いや、いい。普通に出迎えるか」


「よろしいので?」


「魔物退治に金を使って、さらに時間も無いんだ。仕方ないだろ」


 財政難についてはケヴィンも深く理解しているので、それ以上の追求はなかった。

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