第44話 俺の言葉が信じられないのか?

「俺と何の話をしたいんだ?」


「うーん。そうですね……同じ話題ばかりだと芸がないし、別のことにしましょうか」


 話している間にもアデーレは抜け出そうと必死に抵抗しているが、セラビミアの拘束からは抜け出せない。


 首を強く締め付けられて、顔が青白くなっていく。


「アデーレ! それ以上は動くな!」


 俺の命令を聞いてピクッと犬耳が動くと、アデーレから力が抜けた。


 抵抗の意思がなくなったとわかったようで、首を締め付けていた腕の力が弱まる。


 ようやく普通に呼吸が出来るようになった。


「ジラール男爵は、アデーレちゃんにご執心のようですね」


 なんとセラビミアが舌をだすと、アデーレの頬を舐め始めた。


 嫌そうな顔をしているが抵抗はしない。


 愚直にも俺の命令を守っているのだ。


「その嫌がる顔も素敵ですね。うーん。欲しくなっちゃう」


 今度は首筋まで舐めはじめた。


 これ以上、見過ごしてしまうと、アデーレが変な性癖に目覚めてしまうかもしれない。


 さっさと中断させるか。


「話はどうした?」


「あ、そうでしたね。楽しくて忘れちゃいました」


 なんだあれ、セラビミアは同性が大好きなタイプなのか?


 出会った当初は死神のような威圧を感じていたが、今は年相応の少女という雰囲気である。


「では質問です。ジラール男爵は、領地をどうしたいと考えていますか?」


 また曖昧で範囲の広い質問だ。


 答えに悩む。


 セラビミアは信用できないので、適当に誤魔化すとしよう。


「ジラール家を繁栄させるために運営する。当然だろ」


「繁栄……ですか。具体性がありませんね」


「漠然とした質問には、曖昧な答えしか返せないぞ」


「なるほど。確かにその通りですね」


 セラビミアはアデーレに頬ずりしながら笑っていた。


 俺への質問なんてどうでも良くなったんじゃないか?


 なら、さっさとお家へ帰れよ。


「今のジラール領はお金がなく、過去の重税で民は疲弊しています。一歩間違えれば財政破綻する状況です。それは、わかっていますよね?」


「もちろんだ」


「では、現状を打破する対策について教えて下さい」


 意外とまともな質問だな。


 領地を審査する立場から言っているのだろう。


 ゲーム知識の無いジャックであれば破綻するまで遊びほうけるとか言うんだろうが、俺はそんなことしない。


 だから、この場で嘘をついてもすぐにバレしまうだろうし、本音を語るしかないだろう。


「セラビミアも知っての通り、税の制度を見直して領民の生活を改善、まともに働ける環境を作っている」


 人は機械ではない。


 酷使すれば効率は落ちて収入は減る。


 当然、税収もだ。


 だから、働けば自分の生活が楽になるという想像ができるほど、税率を下げた。


「なるほど、なるほど、それで?」


「後はゆっくりと時間をかけて財政を回復させてから、領地内の施設を整備、また土地を開拓していく。特に第四村近くにある未開の森は狙い目だろう」


 領内には半壊した橋や未整備の道、他、魔物がはびこり冒険者すら入れない森などが沢山ある。


 そういった場所の改善は、時間をかけるしかないのだ。


 俺の代では一部しかできないだろう。


 数代続く事業となるはず。


「時間をかけて、ですか。ふむ、堅実でいいですね」


 含みのあるいいかただな。


 ジャックらしくないとでも言いたいのだろうか。


「質問は以上か? であれば、アデーレを解放してくれ」


「質問ではありませんが、話したいことが一つだけあります」


 何を言われるか身構えていると、エルフ姉妹の姿が見えた。


 俺たちが対立していると気づいたようで、慌てて駆け寄ってくる。


「セラビミアさん! 何をしているんですか! 血も出てるし!」


 文句を言ったのは姉の方だな。


 妹のリリーは興味深そうに見ているだけである。


「ちょっと遊んでいただけだよ!」


 アデーレを解放すると、セラビミアはエルフの姉妹に抱き付いた。


 こいつ女なら誰でもいいのか!?


 エルフの姉妹がじゃれ合いながらセラビミアにポーションを飲ませている間に、双剣を拾ったアデーレが俺の前に立つ。


 まだ警戒しているようだが、戦うことはないだろう。


 肩に手を置いてアデーレに声をかける。


「戦いの時間は終わった。双剣をしまってくれ」


「で、でも!」


「俺の言葉が信じられないのか?」


「そんなことは、ありません」


「だったら、言うことを聞けるよな?」


「……はい」


 渋々といった感じだが、アデーレは双剣を鞘にしまってくれた。


 ただ俺を守りたいという気持ちは残っているようで、腹に抱き付いて離さないようにしている。


 邪魔になっているんだが、文句をいう前にセラビミアが話しかけてきた。


「最後に聞きたいことですが、アナタの野望を聞かせてもらえますか?」


 俺のことを知るのと同時に、将来どう動くかわかる質問だ。


 ゲームのシナリオに沿って国王になると言ったら即殺されるだろう。


 だが俺は、そんな野望など持っていない。


「ジラール領で貴族らしく贅沢な生活できれば十分だ。それ以上の望みはない」


「それは本当ですか?」


「嘘をつく理由がないな」


 本心なので堂々と言い切ったのが良かったのか、セラビミアは納得したようだ。


 フッと笑ってから、俺に近づく。


「私がここに来た目的は後日、話しますね」


 返事をする前に離れてしまい、エルフの姉妹と合流する。


「オリビアちゃん、リリーちゃん、森を見てきたんでしょ。案内してよ-」


 セラビミアは二人を連れて、どこかに行ってしまった。


 何をしたかったのかわからいままであるが、とりあえず勇者の視察はこれで終わったと思っていいようだ。

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