第22話 助けてください! 何でもしますから!

 テントの前に戻ると、護衛として同行しているアデーレに声をかける。


「兵たちを鍛えてもらえないか?」


「私……が、ですか」


「そうだ。アデーレにしか頼めないことなんだ!」


「私にしかッ! そうですよね、私にしか出来ませんよね。わかりました。ジャック様のために頑張りますね!」


 少しだけ渋っていたから強引に頼むと引き受けてくれた。


 頼られたのが嬉しかったようで、尻尾を左右にブンブンと振っている。


 本当に犬っぽいな。


「今回は回復用のポーションも持ってきた」


 ゲームで定番の回復アイテムは、この世界にもある。


 錬金術師が独自のレシピで調合した回復ポーションは傷を瞬時で癒やす効果があり、品質によって1級~5級にまで分かれている。


 最高品質の1級であれば四肢欠損も回復するらしいが、男爵家であっても手に入れるのは困難で、俺が持っている手段をすべて使っても3級の回復ポーション――内臓の再生まで可能――がギリギリ手に入るか、入らないかといった感じだ。


 だから今回は、5級の回復ポーションを兵に配ることにした。


 打撲なら完治可能である。


 対リザードマン戦では深い斬り傷まで回復させる4級も欲しいが、ジラール家には一本しかないので俺のケガを治すためだけに使うと決めている。


「多少のケガなら問題ない。頼んだぞ」


「はい!」


 はりきって返事したアデーレを見てから、ずっと黙ったまま後ろに控えているケヴィンに命令を出す。


「徴税人を拘束して、徹底的に絞り上げろ」


 村長には逃げられてしまったが、徴税人は村に滞在している。


 俺の屋敷がある町に財産が残っているので、逃げ出せないのだろう。


「かしこまりました」


 一礼してからケヴィンはテントから去って行った。


 状況証拠からして徴税人が黒なのは確定している。


 主犯が村長なのか、それとも徴税人なのか調べてもらうのだ。


 家令としてさまざまな業務をしていたヤツなら、税を集めるために雇われた人間を尋問することぐらい簡単にこなしてくれるはず。


 その間に俺は、死亡フラグに大きく関わる兵たちの戦力向上に全力を尽くすとするか。


◇ ◇ ◇


 ジャック様の命令によって徴税人を捕らえた私は、ギリギリ原形を留めている建物に入ると床に投げ捨てた。


 手足を縄で縛られているので、受け身が取れずに顔を強打したようで、痛みによって悶えている。


「ケヴィン様! どうしてこのような扱いをされるんですか!」


 徴税を依頼していたこの男は、一代で大きな資産を築いた男だ。


 確か離婚経験があって、今は独身で子供はいなかったはず。


 種なしだったという噂もあったがどうでもいい話である。


 文字が読めて計算もでき、身元もしっかりしているので使っていたのだが……。


 ジャック様に指摘されるまで税を誤魔化しているとは思わなかった。


 多少の賄賂であれば目をつぶったかもしれないが、大規模な畑を隠蔽していたとなれば話は変わる。


 ジラール家、そしてヴァルツァ王家に対する裏切り行為であり、王国法では重罪となる。


 胸ぐらを掴んで顔を近づける。


「第三村の隠し畑、お前は以前から知っていたな?」


「…………!!」


 隠し事は下手なようで、感情が表にでていた。


 ちょっと脅したぐらいで動揺するんだったら、脱税に手を貸さなければいいものを。


「隠しても無駄だ。村長がすべてを喋った。他の村も調べればすぐにわかるぞ」


 第三村の村長は逃げ出してしまったのでブラフではあるが、証言が必要になれば第一や第二村の村長に喋らせればいい。


 罪を軽減すると言ってやれば、素直に喋るだろう。


 村長は被害者であり脱税の主犯は徴税人ということにすれば、処刑する相手は一人で済む。


 ジャック様の怒りは村には向かないはず。


 重税で疲弊した村にこれ以上負担はかけたくないので、生け贄になってもらうぞ。


「ま、まってくれ! 畑については、村からの提案だったんだ! これ以上持って行かれたら餓死してしまうと懇願されたら、誰だって黙認するッ!!」


 嘘ではないが一部の事実を隠しているな。


 人の命より徴税を優先するヤツらが、無償で村人の訴えを受け入れることはない。


 多額の賄賂をもらっているはずだ。


「見返りは、どのぐらいもらったのだ?」


「銀貨10枚程度の、グハッ」


 舐めたことを言ったので腹を全力で蹴り飛ばすと、血を吐き出しながら吹き飛んで壁に衝突した。


 やり過ぎてしまったようで、意識が半分飛んでいるように見える。


 髪をつかんで無理矢理にでも立ち上がらせた。


「私が老人だと思ってバカにしているのか? これでも若い頃は何度も戦場に出て敵兵を殺し、拷問もしてきた。この場でその技術を披露してもいいんだが」


 喉を軽く掴んで脅してみる。


「ヒィ! 助けてください! 何でもしますから!」


 情けない。


 心が折れたようだ。


「では質問に答えろ。村に隠し畑があることは知っていたな?」


「は、はい! 第一から第四までの村にございます!」


「領主に隠す見返りとして何をもらった?」


「隠し畑で収穫できた作物の半分でございます!」


 未報告だった期間を考えると、手に入れた利益は金貨数百枚はくだらないだろう。


 なんとも強欲で愚かであり、罪深い男だ。


「では、お前が脱税をするように指示をして、村から見返りをもらった。そういうことだな?」


「え、そんな話ではなかっ――グッ」


 喉から手を離して腹を殴りつけて黙らせた。


 真実はどうでもいいのだ。


 ジラール領、そしてジャック様にとって都合のよいシナリオさえ描ければ、誰が死んでも問題はない。


 特にこいつは税を横領していたのだから、拷問されないだけマシだと思って欲しいぐらいである。


「もう一度聞く、お前が脱税をするように村長を脅して、見返りをもらった。そいうことだな?」


 内臓が傷ついているのか、血を吐き出しながら徴税人は首を縦に振る。


 自白の材料としては十分だな。


「それでは、お前が話した内容を記載するので、間違いがなければサインをしろ」


 羊皮紙にすべての責任は徴税人、村人は被害者だと記載して、脱税の概要を書いていく。


 すべて終わった後、サインを書かせて終わった。


 平民である徴税人には、二度と弁明する機会は訪れない。


 ジラール領で起こった事件としてジャック様が王国法に基づき判決を下せば、処分は終わる。

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