第17話 なぜ、それをッ!!

 ジラール家に雇われている30人の兵と指揮官の兵長、アデーレ、ケヴィンを引き連れて第三村に到着した。


 ルミエは非戦闘員なので留守番だ。


 リザードマンは拠点から動いていないようで、前回訪れたときから村の様子はほとんど変わっていない。


 復興に向けて、壊れた家の撤去が進められている。


 村人総出で石や木材を運んでいるので、荒れてしまった畑を元通りにするには、かなりの時間を要するだろう。


 どことなく怯えたような表情をしているのは、魔物の集団が近くにあると知っているからで、兵を引き連れた俺たちは歓迎されていた。


「俺は村長の所に行く。アデーレは護衛として付いてきてくれ。他の者たちは村の周囲に防護柵を作るんだ」


「承知いたしました!」


 名前も知らない兵長が代表して返事をすると、兵たちは命令を実行するべく迅速に動き出した。


 一応やる気はあるみたいだが、歩き方からして鍛えているように見えない。


 こいつら訓練をサボっていやがったな……。


 できれば俺が指揮を執りたいところだが、やることがあるので今は兵長に任せるしかない。


「ジャック様、行きますか?」


 俺と一緒に行動するのが嬉しいのか、アデーレの目はキラキラと輝いていた。


 反応からして好感度は非常に高いようだし、裏切ることはなさそうだ。


 従順でかわいいヤツ。


 リザードマンから助けられて本当に良かったと思う。


 彼女の好感度を維持できれば、安心して贅沢な暮らしはできる。


 国王になりたいなどと分不相応な夢は描いてないので、俺としては満足な人生を送れそうである。


「ああ、行こう」


 村長の家も大蜥蜴に破壊されてしまったので、今は路上生活をしている。


 無事だったベッドは外に置かれており、木に布をくくりつけた雨よけの天井がある。


 日本でも何度か見かけた、路上生活者と変わらない暮らしをしている。


 何も知らなければかわいそうだと思ったかもしれないが、今はそんな感情は一切ない。


 村長の粗末な家の前に立つ。


「ジャック様。今回は兵を派遣していただき感謝しております」


 年老いた村長が深く頭を下げた。


 俺が何を考えているのか知らないので、嬉しそうである。


 表面上は敬うような態度を取っているように見えるものの、本心では馬鹿にしてるんだろう。


 ふざけたヤツだ。


 許すはずがない。


「俺に隠し事をしているだろ?」


 頭を上げた村長の顔が一瞬だけこわばった。


 これは浮気がバレた元妻と同じ反応で、俺をさらにイラつかせる。


「なんのことでしょうか。ジャック様に隠すようなことなど、何もございません」


「ほう、近くの森に畑があるのは、隠し事には入らないのか?」


「なぜ、それをッ!!」


 笑ってしまうほど、村長の顔が白くなった。


 俺が確信をもって言ったので隠しきれないと思ったのだろう。


 地面に膝をつけて頭を下げた。


「これには事情がありまして! 決して豊かな生活がしたいから隠していたわけではございません!」


 浮気した妻も似たようなことを言っていたな。


 理由があるのと。


 その後の展開も大体予想が付く。


「言ってみろ」


「先代様の重税でございます。森の畑がなければ我々は餓死しておりました」


 ほら。次は他人の責にするんだ。


『私より仕事を優先されて寂しかったの!』


 元妻の幻聴が聞こえてくるようで、イライラしてくる。


 即刻処刑を言い渡して――。


「お前、今、ジャック様が悪いと言ったのか?」


 双剣を抜いたアデーレが、村長の頭を踏みつけていた。


 魔力に殺気がのっているようで、味方であるはずの俺ですら恐怖で動けなくなる。


 まてまて、なんで勝手に動いているんだ!?


 ここは俺がビシッと、かっこいいこと言ってから処分する流れじゃなかったのかよ!


「もぶしばけあぎまぜん」


「なんだその言い方は! 不敬だぞ!」


 地面に口が付いているのでまともにしゃべれない相手に、怒鳴り散らしている。


 アデーレってこんな性格だったか?


 悪い意味でギャップがあり、ドン引きである。


「ジャック様、もうこの男はヤッちゃってもいいですよね。うん。いいはず」


 俺を見るアデーレの瞳がグルグルしているように感じた。


 完全に暴走していやがる。


「じゃ、ヤッちゃいますね!」


「ま、まて!」


 返事を待たずに双剣を村長の背中に突き刺そうとしたので、慌てて抱きしめて止めた。


「ひゃっ!?」


 暴走したアデーレが出したとは思えないかわいらしい声が聞こえたが、俺を油断させるフェイクかもしれない。


 絶対に手を離すものか!


「だ、ダメですって! こんな大勢が見ているところで……」


 それはアデーレのことだ!


 俺の意向を無視して勝手に領民を殺す姿を見られたら、周囲からの批判は避けられないぞ。


 せっかく最強の護衛を手に入れたのに、内部争いの火種になるんじゃない!


「いいから離れろって!」


「わ、わかりました」


 興奮したせいか頬を赤くしたアデーレが村長から離れた。


 死が目前に迫っていたこともあって、村長は目や鼻から液体が流れ出ている。


 汚い面だな。


「た、助けてください!」


 アデーレが暴走したせいで、この場で殺してやろうという気持ちは吹き飛んでしまった。


 しかし、領主に黙って隠し畑を持っていたことは王国法に触れるので無罪とはいかない。


 俺の気持ちもすっきりしないし、正式な手続きをしてから死んでもらう予定に変えることにした。

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