[書籍化]悪徳貴族の生存戦略~領地を荒らしていた両親を昏睡させて追放したら、有能領主になってました。破滅フラグを叩き折り贅沢三昧な暮らしを目指す~
第1話 このまま死んじゃったら、旦那様に殺されちゃう
[書籍化]悪徳貴族の生存戦略~領地を荒らしていた両親を昏睡させて追放したら、有能領主になってました。破滅フラグを叩き折り贅沢三昧な暮らしを目指す~
わんた@[発売中!]悪徳貴族の生存戦略
第1話 このまま死んじゃったら、旦那様に殺されちゃう
嫁に浮気されたので離婚した。
子供は一人いたが、親権は俺にない。
ローンで購入した家は奪い取られてしまい、ワンルームの小さな部屋に住むこととなる。
すべてを失ってから働く気は起きずに職場を辞めると、眠くなるまでゲームをする。
そんな日々を過ごしていたが、すぐに飽きてしまった。
表現規制が厳しくなってメーカーが作ったゲームは楽しくないのだ。
漫画や小説も似たようなもので、当たり障りのない内容ばかりである。
娯楽すら俺を見放したのか――そんな絶望を抱いた俺に残されたものは、同人ゲームだった。
業界の自主規制なんてない。クリエイターが好き勝手に作ったストーリーは、嫌なことを忘れて没頭するには十分であった。
特にお気に入りの同人ゲームは、悪徳貴族となって領民から金を巻き上げるシミュレーションゲーム『悪徳貴族の生存戦略』。
悪徳貴族になって領地を運営するゲームなのだが、領民を殺さない程度に搾り取るのが非常に難しい。
少し厳しくすれば村は全滅するし、中途半端だと反乱がおきる。
さらに疫病や他国の侵略、勇者が貴族を成敗する等、同人ゲームだからこその理不尽なイベントが盛りだくさんだ。
簡単にはクリアできない。
だからこそ、やりこんでいた。
メモ帳にびっしりと文字を書き込むほどに。
それに主人公ジャックの生い立ちには共感できる。
文武両道で魔法も使える多才な人物だったことが災いして、両親に邪魔者だと思われて暗殺されそうになったのだ。
何とか生き延びて婚約者のもとにたどり着いたら、浮気の現場を目撃してしまう。
さらに長く仕えていた家臣たちからも酷い裏切りを受けてしまうのだ。
すべてを失ったジャックは両親を暗殺して当主となり、婚約者と不倫相手をまとめて処刑するという暴挙に出る。
このときばかりは、無気力になった俺もスカッとした気分になった。
きっと自分を重ねていたのだろう。
「うッ」
眠ることなくゲームをプレイし続けて四日目。胸が急に苦しくなった。
もうすぐジャックが国を支配するというのに、俺の体がもちそうにない。
呼吸が浅くなって、意識が薄れていく。
視界は真っ暗だ。音は聞こえない。
このまま死ぬのか……?
すべてを失ったジャックが、成り上がって国を手に入れるところまで見たかった。
『坊ちゃま! どうか意識をしっかり持って下さい!』
何も見えないはずなのに、何故か心配そうに俺の顔を覗き込んでいる女性の顔が視界に入った。
死神にしては美人だな。
死への恐怖を忘れるための幻覚なのかもしれない。
『どうしよう……このまま死んじゃったら、旦那様に殺されちゃう』
俺の体に頭を乗せて、女性は泣き出してしまった。
ほどよい重みを感じる。
…………感じるだと!?
まだ俺は生きているのか!
指先に力を入れると確かに動く。
体を起こすことにも成功した。
「ここは、どこだ?」
呟いてみたが、聞き慣れない声だった。
俺が寝ていた場所はデカいベッドの上で、天蓋までついている。
住んでいた家に入るサイズではない。いや、その前にベッドを買った記憶はないぞ。
「坊ちゃまが生きて……る?」
俺の腹に顔を埋めていた女性が驚いた表情をしながら見ていた。
この顔は見覚えがある。『悪徳貴族の生存戦略』に登場したルミエだ。
ジャック専属のメイドで序盤は献身的に尽くしてくれるのだが、ゲーム終盤になると裏切って敵対している領主に寝返るというキャラクターだったはず。
側室だったという関係もあって、俺のトラウマをグリグリとえぐってきた、憎き相手であった。
後ほど理由は判明するのだが、裏切りを許す理由にはならない。
「奥様にご報告しないと」
「待て!」
慌てて立ち上がったルミエを呼び止めた。
訳がわからないまま状況に流されてはいけない。
何が起こっているのか急いで把握しなければ。
「俺の名前を言ってみろ」
「え、ジャック様ですよね……?」
状況からして、もしかしたらと思ったが、どうやら俺の意識は『悪徳貴族の生存戦略の』主人公、ジャックに乗り移ったようだ。
いや、小さいころからの記憶もあるので、もしかしたら俺は元々ジャックであって、日本に住んでいた記憶が夢や妄想の類だったのかもしれないな。
神様が俺の悲惨な人生に同情して、ゲームという形で未来のことを教えてくれた。
そう思うことにしてみよう。
「俺は何で倒れたんだ?」
「朝食の紅茶を飲まれたときに、胸を押さえながら意識を失ってしまいました。専属の医者に診断してもらってから、ベッドで安静してもらっていたところです」
毒殺未遂か。
この流れは知っているぞ。両親が邪魔になった俺を殺そうとして紅茶に毒を入れたのだ。
ゲームでは犯人がわからずに、その後も何度も殺されそうになるのだが……答えを知っている今、待つ必要はないだろう。
ヤられる前にヤれ。
心が訴えてくる。
この世界が『悪徳貴族の生存戦略』とまったく同じなのかはわからないが、俺を殺そうとした両親は放置できない。
日本にいたころは殺人への忌避感はあったが、今は全くない。
むしろ問題解決するための効率のよい手段だと思っているぐらいだ。
やはり俺は元からジャックなのだろう。
「報告は俺がする。お前はここで待機してろ」
ベッドから降りて立つ。少しフラついたが問題はなさそうだ。
「え、ぼっちゃま!? まだゆっくり寝てないと!」
慌てるルミエを押しのけてしっかりとした足取りで部屋を出る。窓の外を見たら外は暗かった。夜なのだろう。
領民から搾取した金で購入した豪華な壺や絵画、家具などが置かれた通路を歩く。
ゴミ捨て場に寄ってから、両親が過ごしている寝室の前に立った。
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よければ新連載の「え、娼館出禁!? 勇者の俺がクビになったので爛れた生活をしたい~女遊びしようとすると邪魔が入ってハーレムが作れないんですが!?~」も読んでもらえると嬉しいです!
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