13.「ブザマン」『ブザマン』が救世主だと言われた時

 須藤君は話を始めた。


「昨日、珍しくキャラクタショップに居る中島を見かけた。

 自称彼女の高野も居て、仲が良いなとか思っていたら・・・」


 なぜかその後言葉に詰まる須藤君。


「その傍に・・・忘れられない顔、本当に懐かしい顔があったんだ。でも信じられなくて何度も見直したさ。そうだよ小倉、お前だよ。あの頃の小倉の顔だった」


「なんか恥ずかしいな。僕って目立っているのかな?」


 須藤君は首を振っていた・・・

「違う、忘れたくても忘れられなかった顔なんだ。そうさ恩人の顔を忘れるはずがない」


「中島君も言っていたけど、昔助けた話かな?」


「そうだけど、小倉が考えているのとは違う。俺たちはお前。。。いや『ブザマン』に助けられたんだ」


「えっ?『ブザマン』は無様なだけで何も出来ない。だから人を助けることなんてできないんだ」


「違うんだ、『ブザマン』は誰にも助けられなかった俺達を救ってくれた」


「誰も助けられなかった俺達?俺達って?」


「鹿島、山城、杉山、百田、俺、それ以外にほかの学年にも居たと思う、みんな虐められていた気の弱い人間だった」


「本当は先生が助けてくれたんじゃない?ほらホームルームや学級会でいじめはダメだと教えてくれた。みんな納得していたんじゃないの?大体何もできない『ブザマン』がどうやって人を助けたと言うんだ?」


「簡単なことだ学級会もホームルームも先生の言葉も、校長先生の言葉も「その時だけ」だろ。

 直ぐにまた陰湿は虐めが始まり、その虐めが集団化し狂暴化するんだ。

 お前だってそうだっただろ。虐める側の集団は心なんかない。集団になると人は容赦がないんだ」


「僕は言われてもしょうがないことをしたんだ。でも君たちはもう一度先生に相談すれば」


「何度も言ったさ、でも先生も何度も言う内に俺達にも責任があると言うんだ。

 そんなこと言われたって俺達にどうすればいいと言うんだ?

 誰も本気で相談になんか乗ってくれないとし思えなかった」


 人は本当にそんなに残酷なんだろうか?

 僕も虐められていた、それは僕の責任なんだと思っていた。

 でも辛い気持ちはあった。

 何度も、何度も皆から責められ意味もなく誰彼となく謝ること強制された。

 確かに虐める側は集団になると際限なくひつこく虐めて来た。


「集団で虐める奴らは際限なく虐めてくる。

 怒られればその時だけおとなしい。

 でもあの時、この世の正義なんか無いと思ったよ」


「あの時?」


「小倉君は覚えているかな?

 俺たちの小学校にお巡りさんと正義のヒーロー・スプライト・スマッシュが来たことをがあるだろ。

 あの時も皆に虐めはいけない仲良くするんだと説教を垂れていた。


 確かにあいつら虐める側もその時は感激し納得していたよ。


 でも虐める奴らはすぐに忘れたまた俺達をいじめてくる

 結局自分が弱いことが悪なんだと思った、そんな時だったあの事件が起こった」


「あの事件・・・」


「そうだ、驚いたよ、俺たちが虐められていたのを助けてくれることもあった小倉が事件に巻き込まれた。

 その後起こったことは驚くべきことだった。

 虐める側には都合が良かったんだろうな、虐める大義名分ができたんだ、その相手を堂々と『正義』を振りかざして集団で虐めることが出来たのだから。

 そうさ全てのいじめをしていたもの達が自分の正義を振りかざして『たった一人のブザマン』を虐め始めた。

 もちろんそれは奴らにとっては正義だったんだろう、でもそれは正義なんかじゃないのは分かった。

 一人泣いて蹲っているお前を取り囲んで言いたい放題言葉で虐める・・・

 ああ、やっぱりそう言う奴等なんだと思ったのと同時に『助かった』と思った」


「助かった?」


「そうさ、奴らは虐めの言葉を吐くために仲間が欲しかったのさ。

 だから俺達も正義の味方の振りをすることにした。

 奴らの仲間の振りをして同じようにお前を責めた、

 結果俺達に対しての虐めはなくなって行った。

 俺たちはその間に立ち直ることが出来たんだ」


 僕は無言だった。


「その時立ち直ることが出来るならもっと早く同じことをすれば良かったのにとか思っただろ?

 でもそんな簡単なことじゃない、毎日虐められていたんだ、そんな余裕はなかった。

 小学校は義務教育だ、逃げられない。


 小倉の事件以降卑怯だと思ったが虐める側を隠れ蓑にして虐めを避けたんだ。

 虐めが止んでいる間に何とか状況改善する方法を俺たちは必死に考えた。

 そして各個人で自信をもつ方法をみんなで工夫したんだ。

 勉強や運動、楽器、百田なんか漫画を描いていた。

 そういう得意分野を作ったんだ。

 本当に必死だった。

 一目置かれると言う言葉があるように得意分野が俺たちの防御になり虐めから脱却できた」


「みんな偉いな、よく頑張ったね」


「本当に小倉は辛かっただろうな、皆から虐められて。

 それは俺達にも分かった。

 違うな、誰が見ても分かっただろう見る見る小倉は姿も変わって行った。

 

 そうだろうな、虐められたはずの、いや虐められる辛さを知っている俺達にまで虐められたんだから。


 だから小倉が立ち直ったら、礼を言って謝りたいと思った。

 皆も同じだったがお前は中学校に入っても卒業まじかになっても立ち直れそうもなかった。

 俺たちが声を掛けても逆効果なのは分かっていたから俺達も諦めざるを得なかった。


 お前は勉強どころではなかったから高校へは行かないだろうと思った。


 でも、皆が驚くことに、お前は高校に入った。


 もしかすると小倉が立ち直るんじゃないか、皆そう思った。

 そしてふたを開けてみれば俺と同じ高校だったという訳さ。

 俺はみんなから頼まれた『小倉が、小倉君が立ち直ったら、小倉に礼を、小倉に謝ってくれ』とね。

 この一年近く俺は待った、意識してもらおうと『ブザマン』と呼び続けた。


 でも小倉は今日まで反応しなかったんだ。

 それが昨日・・・・昔の小倉が中島と居たんだ。

 夢にまで見たその時が来たんだと思った」


 須藤君の目からは大きな涙がこぼれた。

「ありがとう、本当にありがとう、そしてごめん、本当にごめんなさい」


「僕は何もしていない、君たちの努力の賜物さ」


「違う、先生も校長先生もお巡りさんも正義のヒーローも出来なかったこと。

 そうだ虐めを根幹からお前が全ての虐めを持って行ってくれたんだ。


 そうさ、お前は救世主なんだよ」


「救世主は大袈裟だ、僕は何もしていない」


「俺は知っている『ブザマン』は救世主だ。

 どんなヒーローもどんな偉い人間も出来なかったことを実現した

 本当にありがとう小倉」


「これからは『ブザマン』と呼ばなくても良くなったよ」


「ありがとう、でもまだ僕は『ブザマン』だ。

 目的を何も果たしていない。

 だから今の僕はまだ『ブザマン』で良いんだ」


「困ったな皆に小倉って呼ぼうと知らせようと思ったのに。

 なにか納得することが必要なのか?

 まあいい、もう少し待ってやるよ・・・

 少しの間『ブザマン』と呼ぶよ。

 お前がもう良いと言うまでは『ブザマン』だけど良いのか?」


「もちろんだ、『ブザマン』は何も実現できていない。

 だからまだ『ブザマン』で良い」


「じゃあ、またな『ブザマン』」


 そう言うと須藤は先に学校へ走って行った。


「『ブザマン』は無様なヒーローだ、そうさ本当のヒーローなんかじゃない

 でも『ブザマン』に助けられたと言う人もいることが分かった。

 本当なんだろうか、実際には彼らが頑張ったからじゃないか?

 でも少しでもお手伝い出来たのであれば嬉しい」


 ゆっくりであるが学校への道への足取りが軽くなっていた。


 そして後ろから声がする。

「おはよう小倉!!」

「おはよう小倉君!!」


 中島と高野さんが挨拶をして来た。


「おはよう、中島君、高野さん」


「どうしたんだなんかいいことあったのか?声が嬉しそうだ」


「ああ、九レンジャーの夢を見たんだ。

 アンツレスキューに乗ったんだ」


 他愛無い会話だった。

 あの時アンツレスキューが言われたことを思い出した。


「意味は知りませんがAIである私のヒーローの名前なんです」


 そうだ相棒が俺『ブザマン』のことをヒーローだと認めてくれた。

 でも『ブザマン』はヒーローではない、でも誰も助けられない人たちを救った救世主だった。


「ヒーロー」か・・・


 あんなことをした僕、僕もまだヒーローになる夢を見ても良いのだろうか?

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