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side.Akihito




「お前…あそこの女みてぇなヤツ、どう思う?」


「え?」


トントンと窓ガラス越しに差した先には、

華奢で女顔負けな男子生徒で。


いかにも男ウケしそうな…

女々しいといった印象の容姿をしている。





「え~…別に…?」


曖昧な俺の質問の意図が読めず、言葉を濁した芝崎に俺は更に続ける。






「ならあっちの清楚な感じは?水島みたいなタイプの男なら抱けるか?」


そこには黒髪ですらりとした、

古風な印象の中性的な生徒がいて。


今度の質問は具体的に訊ねたためか、

一瞬怪訝そうに俺を凝視してくる芝崎だったが…。





「無理ッスね。」


大してその生徒には目もくれず、はっきりとそう答えた。







「そうか…」


なんとなく、コイツならそう答えるだろうとは予測していたが。


芝崎の反応に対し、

俺がぼんやりと外を見つめ、物思いに耽っていると…



横から芝崎が、遠慮がちに口を開いた。







「あのっ、俺は思うんスけど。」


「なんだ?」


「俺の場合、単純にホモってわけじゃないって言うか…。男なら誰でも良いわけじゃないと思うんスよね。」



“本気で好きじゃなきゃ抱けない”


好きになった人が、たまたま男だっただけ。

綾兎先輩だから、キスしたいし触れたいし。



欲張りに、なるのだと。





無邪気に白い歯を見せて笑う芝崎に。




「はぁ───…」


「あれ、違ったスか?」


大袈裟に嘆息する俺に慌て出す芝崎が面白くて、つい吹き出すと。コイツは面食らったように、パチパチと目を瞬かせる。







「たく…お前に教えられるとはな。」


「上原サン…」


ちょっと前にコイツに語ってた俺は、一体なんだったんだろうな。


今じゃ俺の方が保を相手に振り回されて…

不器用な事ばっかしちまってる。







「悪かったな。もう行っていいぞ。」



授業を受ける気のない俺は、

机の上に座り煙草を一本取り出して咥える。


芝崎は律儀に頭を下げ、踵を返したが…

入り口の近くで振り返って、






「先輩が心配してましたよ?佐藤先輩の事。」



“しっかり捕まえておけって”




「…ああ。」



目を伏せ、手を上げて応えれば。

それを見届けた芝崎は、ゆっくりと教室を出て行った。







煙草を吹かしながら、

ベルトのチェーンに繋げた携帯灰皿を手に取る。




アイツが初めて俺の為に選んで、

プレゼントしてくれたモノ。


アイツの事だから、きっと。

店で困った顔しながら、散々悩んで選んだのかもなって…



想像しただけで、自然と笑みが零れちまう。







(決めたよ、保。)



携帯電話を片手に、短い文章を打って送信する。



アイツは来るだろうか?

いや、もし来なかったら────…





(追いかけてやるよ。)


今度は俺が。

お前が俺を捕らえて、離さねぇんだから…





人生二度目になるそれは、思ったよりずっと早く



俺のもとへと訪れた。

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