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side. Tamotsu






「ゴメンね、上原君…。」



険悪なムードに耐えかね…つい謝罪を口にした僕。

我ながら、なんとも情けない声だ。



すると前を歩いていた上原君が、急に立ち止まってしまい…。俯き加減の僕は反応が遅れ、その背中にドスンと鼻をぶつけてしまった。







「…んでお前が謝るんだよ?」


「ふぇ?だ、だって…」


地味に痛い鼻をさすりながら見上げれば…

怒るでもなく、バツが悪そうな上原君の困り顔。






「僕が勝手に、家まで押し掛けたりしたからっ…」


「海っつったのは…俺だろがよ。」


コツンと額に当てられた拳が解かれ、ぐしゃぐしゃと僕の髪を掻き回す。


海水を被ったままだったから、少しパリパリしていた。






「俺の方こそキレたりして、悪かったな…。その、気ぃ遣わしちまってよ…。」


「そんな事っ───…ああいう女のヒト、僕は苦手だったから…」



むしろ助けて貰ったし…安心してるんだ。

もし上原君が、あの人達に誘惑されちゃったらって…






「俺も苦手だ。」


「えっ…そう、なの?」


「図々しい女って、ウゼえだけだろ?」


なっ?…と相槌を求められ、正直にウンと頷く。

上原君てモテるし、女遊び激しいとか色々と噂が絶えない人だったけど。



ホントはちょっと違うのかも、しれない。



 




(……今は、いいや。)


昔がどうだったとかは、この際気にしちゃダメだ。


目の前の上原君は、言動や素行こそ荒いけどさ。

いつだって優しくて、カッコイイんだし。


それに…







「また遊ぼうぜ。ただし…今度はちゃんと連絡してから来いよ?」


約束だって、照れ屋なくせに…

真っ赤な顔して小指を差し出した上原君。



さすがに歌は、歌わなかったけども。






「楽しかった。お前と一緒にいるとさ、なんつぅか…スッゲェ満たされるのな…。」


飛びっきりの笑顔で、

とろけそうなくらいの殺し文句を言ってのけるから。






「うおっ…!?…ちょ、保─────」



もう…





「大好き…」


思わずキミに抱き付いて、勢い任せの捨て台詞を残し。


僕はダッシュで逃げ出した。








「たも、つ…」


去り際…微かにキミが、

僕の名前を呼んだのが聴こえたけれど。


咄嗟に起こしてしまった、自らの行動に気が動転して…





「ずりぃだろ、こういうのっ…」


キミが耳まで赤くして、口元を押さえながら。

そう…ボヤいてたなんてことは、想いも寄らなかったよ。







ゴメンね、ごめん。

けど許して欲しいんだ。



キミを見つけたあの瞬間から、

僕はどんどん壊れてしまうんだ。





何もかも麻痺しちゃってる。

苦しいクセに…依存してく今のカンケイ。



優しくして…でも、甘やかさないで?



あり得ないって解ってても、期待しちゃうから。







膨れ上がる想い全部を、吐き出してしまう前に。

僕は全力で海岸沿いを駆け抜けた。

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