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side. Tamotsu





「海に来たのは、いいんだけどさ…」



そこは隠れ家みたいな海水浴場で。

近隣にはもっと栄えた所があったから、比較的に利用者も疎らでしかなかった。







「んだよ…今更イヤだとか言うなよ?」


「そうじゃなくて、さ…水着とか、持ってきてないし…」


ぼそぼそと口ごもっていたら、「バーカ」とコツン。


コレって上原君の癖みたいなものかな…?







「男がんな細けぇこと、気にすんじゃねぇよ。」


そう言って古びたロッカーに、携帯電話や財布を投げ入れる上原君。


僕も習って一緒に鞄を入れ鍵を掛けた。







外に出れば更に気温が上昇し、刺さらんばかりの陽光と、入道雲が広がる澄み切った青空。





「オラ、行くぞ。」


裸足で先を行く上原君。

僕も駆け出せばキュッと砂が鳴り、焼けそうなほど熱かった。








「どうするの?」


背中に向かって問えば、

突然シャツを脱ぎ出す上原君にドキリ。






「わわっ…!」


オロオロ真っ赤になって慌てる僕を尻目に、

上原君は呆れたように半裸でこっちへ近づくと…





「たくっ…いちいち照れんなって…早くお前も脱げよ。」



いきなり万歳させられ、服を脱がされた。





「ひゃっ…ちょ────」


「お前ホント細くて白いなぁ~。」


丁度良いからしっかり焼けよ、とシャツ二枚を日陰に放り投げると。上原君はジーパンのまま海の中へと行ってしまった。


もう…少しは意識してよ…。








(僕が好きだってコト、忘れてるのかな…?)


…なんて言われて今に至るけれど。

僕の中では、これっぽっちも割り切れてないんだから…。






(ずっとこのままなのかも…しれないなぁ。)



その方が良いのかもしれない、お互いにも。


上原君は、親しい友達がいないみたいだったから…。今は僕に一番、素を晒け出してくれてるとは思う。


たぶん友達って立ち位置なら、

誰より近い関係だって自信もあるんだよ?



でも…






(そんなの、ヤダよ…。)


分かってる、

上原君だってまだ失恋したばかりだし。

今でも時々物思いに更けったりするくらいだから…



この気持ちを押し通したところで。

僕が空回りするのは、目に見えてるんだ…。








「オイ保、早く来いよ!」


「あ…う、うんっ!」


重くなった足取りで駆け寄り、

海へと踏み出せばパチンと目が合って。





「ひゃっ…!!」


いきなり海水を顔に浴びせられ…僕は堪らず咽せてしまう。






「わりぃ、けど気持ちイイだろ?」


言いながらも、悪びれた様子なんて微塵もなく。

悪戯に笑う上原君。



光を浴びて透き通る髪から滴る水、露わになった肌と、程よく鍛えられた腹筋…



どこから見てもカッコ良くてキラキラしてて。

僕がこっそり落ち込んでると、こうしてさり気なく慰めてくれるから…




やっぱり上原君には、敵わないや。










昨日より今日、今日よりも明日。

確実に増えていく、好き、スキ。


あまりにも優しくしてくれるから、

期待し過ぎて、おかしくなりそうだよ…。









「うおっ…!?」


秘めた想いを誤魔化すように、僕からも遠慮なく上原君へと仕返しすれば。


水も滴る良い男は、くしゃりと口角を上げて笑い。

子どもみたいにバシャバシャと、何倍にも反撃してきた。





だから、そういうトコが…僕は全力で好きなんだよ?

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