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side. Tamotsu





「あっ、遊びに来たんだよ!遊んでくれるって約束、してたでしょ?」


「おまっ、約束ってそういうことは事前に───…はぁ…」


根負けしたのか眉間を押さえ、溜め息を吐く上原君。寝癖がぴょこんと立ってて、なんか可愛い。








「なぁ~、あんたホントにダチなん?」


いつの間にか上原君の背後に佇んでいた、先ほどの弟くんと思しき彼が、物珍しげに話し掛けてくる。






「えっ、と…その……」


実は、お兄さんに片思い中の身なんです!…なんて、本当のことは言えるわけないし。

かといって、無難に友達ですっとか…本人の前で言い切るのもなんだかいたたまれず。


返答に困っていたら…






「…ダチだっつってんだろ?」


上原君が庇うよう間に入り、そう断言してくれた。

嬉しかったけど、本音はちょっぴり複雑…。







「とりあえず上がれよ、保。」


「なんだよ、珍しいじゃんか。兄貴が家にダチ連れて来るとかさ?」


まあ、僕が勝手に押し掛けただけなんだけど。

…ていうか、やっぱり弟くんだったんだね。







「うっせぇんだよ友仁ともひと、あっち行ってろ。」


弟くんは『友仁ともひと』君と言うらしい。


まだ興味津々で、僕に食らいつく友仁君に容赦なく蹴りを入れて追い払うと。

上原君は僕の腕を掴んで、足早に二階へと駆け上がった。



こういう不意打ちは、ほんと心臓に悪いです…。











「着替えるから、ちょっと待ってろ。」


「う、うんっ…。」



とりあえず進められたベッドへと腰を下ろす。

勿論、視線は下。いくら男同士でも…上原君の裸だけは、普通に直視出来ないよね…。


乱れたシーツに手をやれば、まだじんわり温かくて。

それに加えて上原君の香水とか、微かな汗の匂いが混ざってて…


意識したら、心臓がヤバいくらいに跳ね上がった。








想定外にも来てしまった、想い人の部屋。


良く知らないロック系の洋モノポスターとか、黒のシックな家具とか…モノトーンで統一された部屋は、概ねイメージ通りな様相。


意外とキレイにしてるんだなぁ…。






「わわっ…」


ボスンと隣りに上原君が座ってきて、ベッドが音を立てて揺れる。


…どうやら着替え終わったみたい。



色落ちした古着っぽい緩めのジーンズに、二連のチェーンが下がっていて。灰色の薄手のアウターに黒のプリントTシャツ、腕には細い皮のバンクルが嵌っていた。


何気に初の私服姿は、想像以上に素敵です…。








「たく、連絡ぐらいしろ…今日たまたま暇だったからいいけどよ。」


「ご、ごめんなさい…。」



夏休み開始から早くも二週間。

いざお誘いしようにも、どうしていいか解らなくて…。


流石に焦ってきて、いても立ってもいられなくなり。

事前に訊いて把握してた住所を頼りに、気付けばストーカー紛いの暴挙に及んでしまったワケです…ハイ。





しゅんとしてたら、コツンと手の甲で額を小突かれた。…痛くはない。

それからカチカチ音がして、隣からふわりと紫煙が広がった。



煙草は苦手。

でもこの匂いだけは…スキ。


上原君が好んで嗜む、メンソールの濃い香り。








「…で、どこ行くんだ?」


「ふぇ?」


聞かれても答えられない。だって─────…




「お前…来るんだったらちゃんと計画立ててからにしろよ…。」


「ハイ…ゴメンナサイ…」


更に落ち込んで俯いたら上原君は、仕方ねぇなと溜め息を漏らして…僕の頭を乱暴に撫でてくれた。








「行くぞ。」


「えっ…どこに?」


慌てて後を追いかけたら、顔だけで振り返り一言。





「海。」

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