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(上原君…)



ようやく彼らを見つけた時。

上原君はぐったりとした綾ちゃんを、その腕に抱えていた。



少し離れた場所には、

地面で意識なく横たわる、傷だらけの芝崎君。


そして彼に泣きながら縋りつく…先程の女の子。








「ケンカ、したの…?」


芝崎君も上原君も、ボロボロになっていて。

僕は思わず上原君に駆け寄り、問い詰めたら───…






「お前には関係ねぇだろ…」


そう、冷たくあしらわれ…

上原君は綾ちゃんを背負って立ち上がった。








「カンケイ、ない…?」



(あるもんっ…キミの事なら全部、そうありたいよ…)



けど、言えるわけないよね。







綾ちゃんを背に、去っていく上原君。


わざわざこんな所にまで来て、

聞かなくてもいい拒絶を受けて、空回り。


己の浅はかな行動で、更に追い詰められるなんて。



何してんだろ…。








「佐藤…?」


ふたりを見るのが辛すぎて、キミを追い越し駆け出す。




擦れ違い様に、上原君に名を呼ばれた。


嬉しいとか、喜んでいられる状況でもないのに。




やっぱり涙が出ちゃうんだ。












────────……





「またかよ…。」


「……ごめん。」



授業中の静かな校舎の屋上。

ひとり煙草を吹かしていた上原君に謝りつつも。

また隣に距離を取って、ちょこんと腰を下ろした。



彼は何も言わない。







「…ケガ……」


「あ?…んなの大したコトねぇよ。」


まだ傷だらけだったけど。

不良の上原君にとっては慣れっ子みたいで、本当に平気そうだった。







彼と芝崎君が喧嘩したのが2日前。


理由はやっぱり綾ちゃん。

あんなコトがあっても、未だに上原君は綾ちゃんの隣り。



芝崎君は昨日、休んでたみたいだったけど…

現状に変化は見られなかった。


上原君の心の中を、除いては…








「綾ちゃんに、伝えたの…?」


「………ああ。」


「そっ、か…。」



ギュッと膝を抱える。

苦しくて…胸に溜まったモノが、溢れてきちゃいそうだったから。


そのまま掛ける言葉も見つからず、黙っていたら…






「もう、フラれてっから…。」



そう低く呟いた声に、思い切り肩が跳ねた。



ポツリポツリと独り言みたいに、上原君が話してくれたのは…


2日前、あの日の出来事だった。

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