第5話

 テーブルの前に椅子に腰を下ろし、夕食を食べ始めた僕たち。


「ゼロ様。私の」


「あっ。ちょっと待って」

 

 自己紹介を始めようとした女性の言葉を止める。


「僕の名前は亜蓮。神崎亜蓮。ゼロって本名じゃないから、亜蓮って呼んで」


「ほ、本名じゃない……」


 僕の言葉を聞いて女性はその表情を驚愕と絶望に染める。 


「いや。そ、そんなショックを受けなくても。僕は日本人なんだし、ゼロなんてどう考えても日本人の名前じゃないじゃん。キラキラネームにも程があると思うの」


 まぁ、亜蓮ってのも結構

 僕は異世界ファタンジー作品の登場人物だろうか?漢字で書く亜蓮より、カタカナでアレンって書く方がしっくり来るよ。

 フリガナの欄で違和感を覚えるような名前が良かったよ。


「そ、そう、だよな……ははは」


「別に気にすることじゃないよ。あの頃は名前なんてコロコロ気分で変えてたし」

 

 どうせ忘れられる名前である。どんな名前であっても関係ないだろう。


「普通に亜蓮って呼んで」


「わ、わかりました……亜蓮様」


 別に僕を様付け呼ぶ必要なんてないけど……まぁ、良いや。僕のことをどう呼ぼうとも当人の自由だ。


「うぅん!亜蓮様。私はアルファ。亜蓮様唯一にしてただ一人の騎士です」


 女性、アルファはドヤ顔で自己紹介を行う。


「ん?普通に日本人だよね?名前がアルファ?」


「過去の名前はとうに捨てました。今の私はアルファ。亜蓮様より下賜された素晴らしき名です」


「……」

 

 多分、それ。

 僕がギリシャ文字にハマっていたときにクソ適当につけた名前だと思うんだけど。それで良いの……?


「なるほど。僕唯一の騎士ね」

 

 唯一の騎士。

 その言葉を聞いた、思い出して来た。

 ヤクザのフランス版みたいな連中と遊んで居たときに見つけて、引きずり回した記憶がある。

 適当につけて、適当に引き連れ回したこいつがまさか僕のことを覚えていて……なおかつ未だに僕のことを慕っているとは思わなかった。

 一緒に居たのは二、三週間だったと思うんだけど。


「思い出したよ。……それで?なんでお前が僕のことを覚えているんだ?」

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